大腸がん治療の現状
大腸がんの症状について
ポリープができた段階では、自覚症状はほとんどありません。ポリープが大きくなり、がん化すると、血便や下血、下痢や便秘を繰り返すようになります。粘膜の下層にまでがん化が進行すると、リンパ節、肝臓、肺などの他の臓器に転移することもあります。
早期発見のために検診が重要です。大腸がんの場合は40歳以上の方は年に1度は検診を受けることをおすすめします。家族に大腸がんと診断された方がいるなら、早めに検診を受けてもよいと思います。
治療の種類
発見が早い場合は、内視鏡治療で切除できることもあります。病気の進行度によって、手術、化学療法、放射線療法などの治療法を選択します。現在は、開腹手術のほか、直径1センチ程度の穴を5~6か所開け、内視鏡や手術の器具を入れて行う腹腔鏡手術、遠隔操作で細かい操作ができる手術支援ロボットの手術があります。腹腔鏡手術とロボットによる手術は、開腹するよりも患者さんへの負担が小さく、出血も少ないのが特徴です。
大腸がんの治療
大腸がんは、病巣を残すことなくきれいに切除すれば(治癒切除と呼びます)完治が期待できます。
病巣が粘膜内に留まる粘膜内がん(ステージ0期)では、 局所切除術で完治します。 病巣が粘膜下へ浸潤する浸潤がんでも治癒切除後の生存率は良好です。
大腸がんが他臓器に浸潤していたり、肝臓や肺に転移を認める場合にも切除が可能であれば予後が期待できます。病巣周囲のリンパ節も含めてがん病巣を残さずきれいに切除することが重要です。病巣をきれいに切除できない場合の成績は不良ですが、腸閉塞の処置や出血のコントロールのために手術(姑息切除と呼びます)が行われます。
大腸がんの手術
1)結腸がんの手術
結腸がんの手術は、病巣と共に口側肛門側の腸管を10cmほど離して切除します。同時に周囲のリンパ節の切除(リンパ節郭清と呼びます)を行います。部位により以下の手術を行います。
- 結腸右半切除術:盲腸がん、上行結腸がん、一部の横行結腸がんなど
- 結腸左半切除術:下行結腸がん、一部の横行結腸がんなど
- 結腸部分切除術:横行結腸がんなど
- S状結腸切除術:S状結腸がん
- 大腸全摘除術:大腸ポリポーシスなど
2)直腸がんの手術
直腸は骨盤内の狭いところにあります。直腸の後面には仙骨があり、直腸の前面には、男性では膀胱、前立腺、精嚢、女性では膀胱との間に膣、子宮があります。直腸の下部は体壁を貫いて肛門を形成しています。骨盤内の臓器は、自律神経により排便、排尿、性機能などの大切な機能が調節されています。これらの機能や周囲臓器の温存が可能な場合と切除を要する場合があります。
(1)自律神経温存術
(2)肛門括約筋温存術
術中写真 1
肛門のすぐ口側に直腸がんによる狭窄像を認めます。
術中写真 2
直腸切除後に肛門とS状結腸との吻合を行いました。
(3)直腸切断術
(人工肛門の造設)
肛門や肛門に近い直腸に発生した浸潤がんでは、病巣を残さずきれいに切除するために自然肛門を切除して人工肛門を造設する手術を行います。人工肛門の指導を行う専門の看護師や教育ビデオ、患者会(もみじ会)などを通じてストーマ管理の自立に努めています。
(4)骨盤内臓全摘術
がんが膀胱や前立腺、子宮や膣、仙骨に浸潤しているとき、周囲臓器を一緒に切除します。骨盤内の大きながんや再発がんが適応になります。大腸がんの手術では、最も大きな侵襲を伴う手術です。
(5)経肛門的局所切除術
肛門近くの早期のがんに対して行っています。肛門を器具で広げてがんだけを切除します。リンパ節郭清は行いません。
3)腹腔鏡補助下手術
お腹に小さな穴を数か所開けて腹腔鏡を挿入し、モニター画面を観ながら体外より手術を行います。カメラによる詳細な観察が可能で、術中出血は少ない傾向です。手術時間は長めですが、お腹の創を小さくできるのが特徴です。
ロボット支援手術のメリット
患部や手術する範囲をモニターで細部まで立体的に確認できるので、イメージしたとおりの手術が行いやすいことです。当院では2019年に「ダビンチ」を導入しました。高度な技術を習得した医師が直腸がんの治療にあたっています。2022年は直腸がん患者さんの8割をダビンチで手術しました(8月現在)。骨盤深部での細かな手術が行えるため、性機能や排尿機能などを保持しながら肛門を残す手術が行いやすくなりました。
術前・術後のケアについて
安全に手術できるように基礎疾患の有無などに応じて十分な術前検査を行います。肛門近くの直腸がんの場合、術後に排便障害が起こることがあります。そのため、術前から骨盤底筋や括約筋のリハビリを行っています。入院は10日程度です。退院後は原則5年間、CT検査などで再発していないかどうかを確認します。