胆道由来のがんに対する外科的治療について
ここでは胆道由来の悪性腫瘍(がん)について説明いたします。胆道とは、肝臓と十二指腸をつなぐ管であり、胆汁と呼ばれる消化液の通り道のことを指します。胆汁は肝臓内で産生され、胆管と呼ばれる管を通って運ばれ、十二指腸へ分泌されて食べ物を消化します。胆管は部位によって肝門部胆管、遠位(肝外)胆管、十二指腸乳頭部に分けられます。胆嚢は肝外胆管の途中に合流する袋状の臓器で、主に胆汁の貯蔵と濃縮を行っています。この胆道にがんが発生した場合、がんの部位によって肝門部領域胆管がん、遠位胆管がん、十二指腸乳頭部がん、胆嚢がんと呼ばれます。
胆道がんの診断
胆道がんも膵臓がんと同様に治りにくいがん(難治がん)の代表と言えます。早期の発見が難しいため、がんが進行して胆汁の流れが滞って生じる黄疸や検査異常で発見されることが多いためです。黄疸以外にも上腹部の痛みや体のだるさ、食欲不振で発見されることもあります。幸運にも早期の胆嚢がんで発見されるケースとしては、胆石症の手術で胆嚢を取ってみたら偶然見つかった場合や定期的な超音波検査で発見された場合などがあります。
胆道がんが生じやすくなる危険因子としては、胆管膵管合流異常や原発性硬化性胆管炎という先天性の疾患や、肝臓内に生じた結石(肝内結石)、サルモネラ菌感染、ある種類の工業用化学合成物質などが知られています。一方で、胆嚢結石や胆嚢ポリープ、慢性胆嚢炎は胆嚢がんが発生しやすくなるという報告が以前よりありますが、きちんと証明されてはいません。
胆道がんは、手術前にがんであると確定診断することが難しいことでも知られています。手術を受けてみたら良性腫瘍や前がん病変、炎症による変化だったと判明する場合があります。しかしながら、前述のように体の奥深くにある小さな管であり診断技術には限界があることに加えて、がんであった場合に後々手遅れになりやすいことから「疑い」として手術をお勧めすることがあります。いずれの場合も、検査結果や治療について詳しく説明をさせていただき、最終的には患者さんの意思で手術を受けるかを決めていただきます。
胆道がんが疑われた場合、採血・CT・MRI・内視鏡検査など多くの検査が必要になります。当院では、消化器内科や放射線科と連携して多くの患者さんの診断、治療に当たっております。心配な症状や検査結果がありましたら、いつでも消化器内科(胆膵内科)、または外科(肝胆膵外科)へお問い合わせください。
胆道がんの治療
胆道がんに対しては、手術が唯一根治を望める治療であり、取り切れない範囲までがんが広がっている状況(遠隔転移)でなければ手術が行われます。ごく一部の良性腫瘍(十二指腸乳頭部のポリープなど)では、内視鏡で治療が行われるケースもありますが、がんが疑われる/診断されている場合には、手術が標準的な治療となります。当院では、手術が難しい患者さんでも豊富な治療経験に基づき、綿密な検討や術前治療を行った上で、手術の可能性を追求するようにしています。
胆道がんの手術は腫瘍の位置と進行度により、術式や切除範囲が大きく異なることが特徴です。進行胆嚢がんや肝門部領域胆管がんでは、際だって手術の難易度が高いため、多くの肝胆膵手術を行っている施設での治療成績がよいとされています。
ここでは部位別の手術の概要を解説いたします。
遠位胆管がん、十二指腸乳頭部がん
遠位胆管は膵臓の中を通るため、遠位胆管がんには「膵頭部がん」と同様の膵臓の右半分と十二指腸を切除する膵頭十二指腸切除が行われます。切除後は残った膵臓、胆管、十二指腸を小腸につなぎ合わせます。詳しくは「膵臓がんの治療」の項目をご覧ください。
肝門部領域胆管がん、進行胆嚢がん
早期の胆嚢がんであれば胆石症と同じ手術である胆嚢摘出術で治癒しますが、進行した胆嚢がんと、ほとんどの肝門部がんに対しては、肝臓と胆管を切除する必要があります。肝門部は胆管のみでなく、肝臓を栄養する重要な血管が立体的に走行する複雑な構造をしており、切除と胆道再建(残った肝臓の細い胆管を小腸に縫い合わせる)には高い技術が必要となります。どれぐらいの肝臓を切除するかはがんの広がりに依りますが、一般に胆道がんでは肝臓がんの手術と比較して大量の肝臓切除を必要とする場合が多くなります。そこで、切り取る部分の肝臓の血管を事前に詰めておいて、残る肝臓を大きくしておく手術(門脈塞栓術)を必要とする場合があります。また、がんの広がりによっては、肝臓と胆嚢だけでなく膵臓も合併切除することがあり、その場合は上記の膵頭十二指腸切除が追加されるため、さらに難易度が高くなります。
胆道がんでは、手術の前に抗がん剤治療をおこなうことはまれです。手術後の再発予防の抗がん剤治療に関しても、成績がよくなると証明された臨床試験はありませんが、切除したがんのステージによって患者さんと相談して行うこともあります。
手術後に再発を認めた場合には全身化学療法(抗がん剤)が行われます。近年多くのがん腫で新しい治療薬として注目されている「免疫療法(免疫チェックポイント療法)」は、胆道がんに有効である確率は2-5%とされています。
当院の胆道がん手術の成績
ここでは、当院の2006年から2018年までの胆道がんの手術成績(生存率)をお示しいたします。がんの再発以外(手術の合併症や他の病気)で亡くなられた患者さんも含まれておりますが、手術を受けることができなかった患者さんは含まれておりません。
遠位胆管がん、十二指腸乳頭部がん
がんの進行度(ステージ)をがん取り扱い規約に基づいておおまかに解説いたしますと、
- ステージ1A:がん細胞が胆管、十二指腸乳頭部に留まっている
- ステージ1B/2A:癌細胞が周囲の臓器に広がっている
- ステージ2B:リンパ節転移が陽性
となります。
それぞれのステージで、がんを遺残なく切除できた患者さんの5年生存率は100%、57%、48%、32%となります。
肝門部領域胆管がん、胆嚢がん
がんの進行度(ステージ)をがん取り扱い規約に基づいておおまかに解説いたしますと、
- ステージ1/2:がん細胞が胆管や胆嚢に留まっているか、ごくわずかに周囲に広がっている
- ステージ3A:癌細胞が周囲の臓器に広がっている
- ステージ3B:リンパ節転移が陽性
となります。
それぞれのステージでがんを遺残なく切除できた患者さんの5年生存率は73%、19%、35%です。