肺がんとはどんな病気?
肺がんは初期段階では症状が現れることは少なく、早期発見が難しい病気です。このページでは肺がんの発生リスクを高める要因となるもののうち、代表的な項目についての情報をまとめています。
1.肺の構造と働き
肺は胸部に左右1つずつある臓器で、私たちが息を吸って体に必要な酸素を取り入れると同時に、体から余分な二酸化炭素を出す役割を担当しています。
息を吸い込むと、空気はのどにある気管を通って肺に入り、気管支と呼ばれる細い管に移動します。気管支はさらに木の枝のように細い管に分かれ、その先には「肺胞」と呼ばれる0.1mm程度の小さなふくろがブドウのふさ状に集まっています。肺胞の壁は非常に薄く、毛細血管と呼ばれる細い血管に網の目のように囲まれています。肺胞は両方の肺全体で、約3-5億個あるといわれています。
吸い込まれた空気中の酸素は、肺胞の薄い壁を通って毛細血管に移動し、血液中に入ります。同時に、体の中でできた老廃物の二酸化炭素は、血液から肺胞に移動して呼吸を通じて体の外に出ていきます。
呼吸は脳の下にある「呼吸中枢」という場所でコントロールされています。呼吸中枢は、横隔膜という肺の底にあるドーム状の筋肉や、肋間筋という肋骨の間にある呼吸に関係している筋肉に指令を送ります。横隔膜が縮まって下に動くと、胸腔内(胸の中)に空間ができて肺が広がり、空気が吸い込まれます。横隔膜と肋間筋が緩むと、肺が縮んで空気が吐き出されます。
2.肺がんになるしくみ
肺がんが起こる原因のひとつに、タバコや大気汚染などの有害物質(健康に悪影響を及ぼすことがある物質)があります。これらの物質により肺の細胞の遺伝子(DNA)に傷がつき、遺伝子が変化を起こして(遺伝子変異)、がんになることが多いです。また、時間の経過とともに肺の細胞の遺伝子が自然に変異して、がんになることもあります。
遺伝子変異は、がん遺伝子やがん抑制遺伝子と呼ばれる、細胞の成長と分裂をコントロールする遺伝子に起きることがあります。これらの遺伝子が傷つくと、細胞がどんどん増えてしまって、結果的に肺がんとなります。
大切なことは、すべての遺伝子の変化ががんになるわけではないということです。多くの場合、体は害を及ぼす前に変異を修復するしくみを持っています。しかし修復できなかった場合、遺伝子変異が残り、細胞が制御できずに増えすぎると、肺がんになるわけです。
3.肺がんの症状と治療方法
肺がんは、肺の細胞が異常に増殖して制御ができなくなり、成長・分裂をして腫瘍となる病気です。この異常な細胞が周りの細胞に入り込み(浸潤)、血流やリンパ節を通じて他の臓器に広がってしまうことがあります(転移)。その結果、呼吸しにくくなったり、他の組織や臓器にも影響を与えます。
肺がんは初期には自覚症状がない方がほとんどです。肺がんが進むと、咳、痰、胸の痛み、息切れや息苦しさ、動悸、血痰、発熱、体重が減るなどの症状が現れ、体に負担がかかったり生活に支障が出たりすることがあります。他の呼吸器の病気でも同じような症状が出ることがあるため、これらの症状があるからといって必ずしも肺がんとは限りません。
健康診断や肺がん検診などでX線検査(レントゲン)を行い、肺がんの疑いがあるとされた場合には、CTなどの画像検査や喀痰検査などでより詳しく調べるための検査を行います。
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肺がんの検査について
肺がんは早期発見・早期治療が非常に重要な病気です。
肺がんがあるかどうかを調べる手段にはさまざまな検査方法がありますが、それぞれがどのような特徴を持ち、どのような方法で行われるのでしょうか。
肺がんは種類によって違う性質や特徴を持ち、がんの大きさや種類、病期(病気の進み具合のことで、ステージとも呼びます)によって最適な治療方法が異なります。多くの場合、手術、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)を組み合わせて行われます。また、場合によっては、分子標的薬剤や免疫チェックポイント阻害剤が用いられることもあります。
一般に、肺がんは早期に発見して早期に治療するほど、よくなる確率が高くなります。肺がんは初期の段階では特に症状がないため、検診などで胸のX線検査やCT検査をすることで見つかることがあります。
肺がんは患者さん一人ひとりの状況によって最適な治療方針が違います。肺がんと診断された場合は、医師とよく話し合って、自分にあった治療法を決めることが大事です。
4.肺がんの種類について
肺がんにはいくつかの種類があり、それぞれに特徴や性質があります。最も一般的な肺がんの種類には、以下のようなものがあります。
1)原発性肺がん
非小細胞肺がん
最も一般的な肺がんで、全体の約80~85%を占めます。非小細胞肺がんはさらに、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんなどに細かく分類されます。
- 扁平上皮がん (へんぺいじょうひがん)
気道の内側に並んでいる扁平な細胞ががん化してできます。肺の入り口に近い肺門部にできることが多く、咳や胸の痛み、息切れなどの症状が出ることがあります。 - 腺がん (せんがん)
粘液を産生する細胞から発生し、非喫煙者に最も多くみられる肺がんのタイプです。肺の外側にできることが多く、咳や胸の痛みなどの症状を引き起こすことがあります。 - 大細胞がん (だいさいぼうがん)
肺のどの部分でも発生し、急速に成長する可能性があります。咳や胸の痛み、息切れなどの症状を引き起こすことがあります。
小細胞肺がん
全体の約10~15%を占めています。小細胞肺がんは進行が早く転移しやすい性質があります。ただし、抗がん剤や放射線治療がよく効きます。咳や胸の痛み、息切れなどの症状が出ることがあります。
2)転移性肺がん
他の臓器にできたがんが血液やリンパ節を通って肺に移動し、肺にがんができたものを「転移性肺がん」と呼びます。例えば、乳がんや大腸がん、腎臓がんなどが肺に転移しやすいがんです。
転移性肺がんは、元のがんが進行してしまったときに起こりやすくなります。転移性肺がんの症状は、咳や胸の痛み、息切れなど、原発性肺がんの症状と似ています。転移性肺がんの治療方法は、元のがんの種類や進行の状態(ステージ)、患者さんの状態によって異なります。抗がん剤治療をする場合は、元の部位のがんに応じた抗がん剤を使います。
5.肺がんになりやすい人はどんな人 ?
肺がんになる可能性を高める原因はいくつかあります。特に重要な危険因子として、以下のようなものがあります。
喫煙歴
喫煙は肺がんの主な原因で、世界の肺がん症例の約2/3を引き起こしています。2002年に発表された国立がん研究センターの調査結果では、日本の男性の肺がんの68%と女性の肺がんの18%がタバコが原因であるとされています(※3)。 肺がんのリスクは、吸うタバコの本数や喫煙期間が長いほど高くなります。他人の煙を吸う受動喫煙も肺がんのリスクを高めます。 すでに煙草を吸っている人も、禁煙をすることで将来的な肺がん発症のリスクを減らすことができます。
年齢
がんは、年をとると発症する可能性が高くなります。肺がんの場合も、年齢が上がるにつれて肺がんになるリスクが高くなり、50歳以上の人で肺がんと診断されるケースが多くなります(図1)。世界保健機関(WHO)によると、2020年の65歳以上の人のがんによる死亡原因の第1位は肺がんでした(※1)。日本においても2019年に肺がんになった患者さんのうちの約85%が65歳以上であり、2020年の肺がんによる死亡者の大部分もこの年齢層が占めていました(※2)。
性別
たばこは肺がんの主な原因であり、過去には男性の喫煙率が高かったため、男性の肺がん患者が多い傾向がありました。最近は女性も喫煙する人が増え、男女での肺がんの発生率の差は縮まっています。世界保健機関(WHO)によると2020年時点で、肺がんは世界中の男性のがんの中でも最も多く、女性でも3番目に多いがんです(※1)。
男性と女性のホルモンの違いが肺がんの発症に影響する可能性があるという研究もありますが、女性ホルモンが肺がんに影響する決定的な証拠はまだありません。女性ホルモンと肺がんの関係をよりよく理解するためには、さらなる研究が必要です。
肺がんの家族歴
肺がんの家族歴がある人、特に一親等の親族(親、兄弟、子)がいる人は、肺がんを発症するリスクが高くなります。ただし、肺がん自体が遺伝するわけではありません。「なりやすい体質」が遺伝する可能性があるということです。そのような場合でもタバコを吸わないことでリスクを減らせます。
個人の健康歴
肺がんになる危険が高くなる原因には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺線維症、結核といった肺の病気があります。これらの病気の既往歴(過去にかかったことがあること)がある人は、特に注意が必要です。
大気汚染
家の外や中で空気が汚れていると、肺がんになるリスクが高くなることがあります。都市部など、空気が汚れやすいところに住んでいる人は、肺がん発症のリスクが高くなるかもしれません。また、ディーゼル車の排出ガスに含まれる微粒子を吸い込むことも、肺がんになるリスクを高めることが分かっています。
粉塵の吸い込み
アスベスト(石綿)や石材などからできた小さな粉やホコリを吸い込むことは、建設現場や工場などで働く人たちにとって肺がんリスクを高めることがあります。特に、鉱業や建設業、製造業などで働く人たちは、この危険にさらされることが多いので、注意が必要です。
βカロチンサプリメント
βカロチンサプリメントは肺がん予防に効果があると期待されて研究されましたが、喫煙者には逆に肺がんを増やす影響があることがわかったため、使用しないことが勧められています(※4)。
これらの危険因子を持つすべての人が肺がんを発症するわけではなく、また逆に危険因子のない人でも肺がんを発症する可能性があることに注意が必要です。
また、確実に肺がんを予防できる方法は禁煙です。現在、煙草を吸っている方は早急にやめることが大事です。
少しでも気になることがあれば、医療機関で医師に相談し、定期的な健康診断やスクリーニング検査を受けましょう。
それぞれの要因が肺がんのリスクを高める理由については、下記のページでより詳しく解説をしています。
まとめ
- 肺は呼吸器官として、酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する重要な働きを持っています。
- 肺がんは肺の細胞が傷つき遺伝子が変異し、異常な増殖を起こすことで発生します。
- 肺の遺伝子を傷つける原因には喫煙、大気汚染などがあります。
- 肺がんには大きく分けて、原発性肺がん(非小細胞肺がん、小細胞肺がん)、転移性肺がんなどの種類があります。
- 肺がんになりやすい人は、タバコを吸う人や受動喫煙の機会が多い人、大気汚染にさらされる人、遺伝的要因を持つ人などです。
- 肺がんは早期発見が重要であり、発症リスクが高い人は定期的な検査を受けることが推奨されます。
肺がんは、発見が遅れると治療が困難になる場合があります。そのため、日頃から定期的な検査や生活習慣の改善など、肺がんにならないための予防や発見に努めることが重要です。肺がんに関する正しい知識を持ち、早期発見・治療につとめ、健康な生活を送りましょう。
参考データ
- 1. International Agency for Research on Cancer(IARC):Cancer Today
- 2. 国立がん研究センター がん種別統計情報
- 3. 国立がん研究センター がん対策研究所:たばこと肺癌との関係について
- 4. Alpha-Tocopherol, Beta Carotene CancerPrevention Study Group, The effect of vitamin E and beta carotene on theincidence of lung cancer and other cancers in male smokers, N Engl J Med. 1994Apr 14;330(15):1029-35.
この記事を書いた人
- 特任副院長
- がん化学療法センター長
- 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
- 日本禁煙学会 禁煙専門医(禁煙認定専門指導者)
- 日本呼吸器学会 指導医
- 日本呼吸器学会 専門医
- 日本内科学会 認定医
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医
- 日本臨床腫瘍学会 指導医
- 日本肺癌学会 中国四国支部評議員
- 日本癌学会 禁煙対策委員会委員
- 日本呼吸器学会禁煙推進委員会SNSアドバイザー