肺がんの原因になるものは?
肺がんは初期段階では症状が現れにくく、早期発見が難しい病気です。
このページでは肺がんの発生リスクを高める要因となるもののうち、代表的な項目についての情報をまとめています。
1.喫煙と受動喫煙
喫煙は肺がんの最大のリスク要因です
タバコの煙には200種類以上の有害物質や70種類以上の発がん性物質が含まれています。これらの物質を吸い込むと、気道や肺を覆う細胞が傷ついて遺伝子が変化し、最終的にがんにつながる可能性があります。肺がんのリスクは、タバコを吸う本数や喫煙期間が長いほど高くなります。
受動喫煙も肺がんのリスク要因です
周りの人が吸うタバコの煙にさらされることを、受動喫煙といいます。受動喫煙はタバコを吸わない人の健康にも影響を与えます。国立がん研究センターによると、受動喫煙のある人は、ない人に比べて肺がんと診断されるリスクが約1.3倍になるとされています(※1)。また近年行われた日本の研究では、同居する夫が喫煙する家庭では、妻が肺腺がんになるリスクが約2倍になることが報告されています(※2)。
喫煙は非小細胞肺がんや小細胞肺がんの主たる原因です。喫煙によって肺がんのリスクが高くなる理由を具体的に見ていきましょう。
遺伝子(DNA)の損傷
タバコの煙には肺の細胞の遺伝子(DNA)を直接傷つける化学物質が含まれています。遺伝子が傷つくことで細胞が異常に増えすぎて、がんになる可能性があります。タバコの煙には70種類以上の発がん物質が含まれています(表1の一覧をご参照ください)。また、ポロニウム210という放射性物質も含まれており、吸い込むことでα線内部被ばくすることが考えられています。
(表1)タバコの煙に含まれる化学物質の一例 |
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タバコ特異的ニトロソアミン類 |
多環芳香族炭化水素 (ベンゾピレン (BaP)など) |
重金属類(ヒ素、カドミウム、ベリリウム、ポロニウム210 (自然放射性核種)など) |
芳香族アミン類(4-アミノビフェニル、2-アミノナフタレンなど) |
揮発性有機化合物(ベンゼン、1、3-ブタジエン、ホルムアルデヒド、酸化エチレンなど) |
炎症・酸化
タバコの煙には、からだをさびさせる物質である活性酸素などの酸化物質も多く含まれています。これらの物質は、からだの細胞や組織を傷つけたり、遺伝子を傷つけたりすることがあります。また、からだの中で炎症を引き起こし、肺の組織を傷つけ、からだの損傷した細胞を修復する機能を妨げる可能性もあります。
せん毛運動の低下
タバコを吸うと、体の外に排出すべきタール(タバコの中にあるさまざまな化学物質が含まれています)や汚れ、菌などを排出する役目を持つせん毛の働きが悪くなり、肺の自浄作用が低下します。そのため、有害物質や発がん物質が肺に残りやすくなります。
免疫力の低下
タバコを吸うと体の免疫力が下がり、免疫細胞ががん細胞を攻撃する力が弱くなります。
肺がんのできる確率は、タバコを吸う人の方が、吸わない人に比べてはるかに高く、男性では4~5倍、女性では2~4倍といわれています。タバコを吸わなくても、周囲の人が吸うタバコの煙を吸い込む(受動喫煙)ことも肺がんのリスクが上がってしまうこともわかっています。職場や同居家族にタバコを吸う人がいると、タバコを吸わない人にも影響があるということです。
国立がん研究センターの「日本人のためのがん予防法(5+1)」では、「タバコは吸わない」ことや「他人のタバコの煙を避ける」ことが大切とされています。
参考サイト:
2.アスベストへの暴露
アスベストという物質を吸い込むことも、肺がんのリスクを高めることがわかっています。
アスベストは、自然に存在する鉱物の一種で、熱に強い性質があるため、建築や製造業界で幅広く使われていました。しかし、アスベストの繊維を吸い込み肺に残ってしまうと、時間がたつにつれて肺が炎症を起こして傷ついていきます。
アスベストにさらされたことのある人は肺がんの発症リスクが上がるといわれています。アスベストには肺がん以外にも、中皮腫(肺の胸膜にできるがん)、アスベスト肺(石綿の繊維の傷による肺の病気)、胸膜プラーク(肺の粘膜が厚くなる)など、他の呼吸器疾患とも関係があることが指摘されています。
アスベストにさらされた人がタバコを吸っている場合、肺がんになるリスクはさらに高くなることが知られています。タバコを吸わずアスベストにさらされていない人の肺がんリスクを1とした場合、タバコを吸う人では約10倍、タバコを吸ってアスベストにさらされている人では約50倍となることが報告されています(※3,4)。
アスベストに関する肺がんやその他の健康問題を予防するためには、アスベストが含まれている材料やその周りで作業するときに、吸い込みを予防する対策をとることが大切です。例えば、保護具を身に着けたり、安全な作業方法を守ったり、アスベストを含む物質を適切に処理することが必要です。
3.大気汚染
大気汚染とは、大気中に存在するガスや粒子状の物質が、自然環境や人間の健康に悪影響を及ぼすような状態になることを指します。多くの研究により、大気汚染は肺がんのリスクを高めることが報告されています。
大気汚染が肺がんの発症につながる理由はいくつかあります。
- 粒子状物質の吸い込み:
大気汚染の主要な成分である微小粒子状物質(PM2.5)は、2.5μm(マイクロメートル…0.0025ミリメートル)以下ときわめて小さいため、肺の奥深くまで吸い込まれてしまいます。これらが肺の中に入り込むと、肺の組織に炎症や損傷ができ、がんのリスクを高めることがあります。 - 有毒な化学物質への暴露:
大気汚染には、ベンゼン、ホルムアルデヒド、多環芳香族炭化水素(PAHs)など、肺がんのリスクを高めるさまざまな有毒化学物質が含まれています。 - 免疫システムの弱体化:
大気汚染にさらされると体の免疫システムが低下し、がん細胞を撃退することが難しくなります。
多くの研究により、大気汚染と肺がんとの関係が明らかになっています。たとえばCancer Prevention Study-IIという研究では、PM2.5が1立方メートルあたり10マイクログラム増えると、タバコを吸わない人でも肺がんのリスクが15-27%増加することがわかっています。
何よりも、PM2.5はタバコの煙の中にも多く含まれていることを忘れてはいけません。
4.遺伝と体質
肺がんになる原因には遺伝や体質の影響もあります。しかし、他の危険因子に比べると影響は少ないです。
遺伝的要因では、例えば、傷ついたDNAの修復を助ける遺伝子の変異を受け継ぐことがあると、がんのリスクが高くなる可能性があります。
また、慢性的な肺の病気や免疫の低下も、肺がんになるリスクを高めることがあります。例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺線維症を持つ人では、肺がんのリスクが高くなります。また、HIV感染者や臓器移植を受けた人などで免疫が低下している人も、肺がんになるリスクが高くなります。
ただし、遺伝や体質だけでは、肺がんの強い危険因子にはなりません。むしろ、タバコを吸ったり環境汚染物質などの他の要因と一緒になることで、リスクが高くなる可能性があります。肺がんのリスクを下げるためには、タバコや環境中の有害物質から身を守り、健康的なライフスタイルを送ることが一番効果的です。
5.その他の要因
女性ホルモンとの関係
女性ホルモンのエストロゲンと肺がんの関係については、いろいろな考えがあります。これまでの研究ではリスクを上げるというものと、リスクを下げるという両方の結果が出ています。そのため、女性ホルモンと肺がんリスクの関係を完全に理解するためには、さらなる研究が必要です。ただし、更年期障害に対して行うエストロゲン+プロゲステロン療法を行っていると、肺がんのリスクが上がるという報告があることには注意が必要です(※5)。
いずれにせよ大事なことは、タバコを吸ったりや環境汚染物質にさらされることは、ホルモンよりもはるかに強い肺がんの危険因子であることです。肺がんの発症リスクを下げるには、タバコや環境中の有害物質から身を守り、健康的な生活を送ることが一番です。
食事と肺がんのリスク
一般的に栄養価が高く、抗酸化作用のある果物や野菜を積極的に食べることは、肺がん予防につながると考えられています。
果物と肺がんについての論文のメタアナリシス(統合解析)では、果物が肺がんのリスクを低下させることが報告されています(※6)。ただし、ベータカロチンのサプリメントは喫煙者の場合は肺がんのリスクを高めるという報告が複数あります。そのため、サプリメントに頼るのではなく、果物や野菜をバランスよく摂ることが大事です。
6.まとめ
肺がんにならないためには、タバコを吸わない(他人のタバコの煙も吸わない)こと、環境中の有害な物質を避けること、遺伝や体質に気をつけること、健康的な食生活と生活習慣を心がけることが大切です。特にタバコや環境汚染にさらされることは肺がんになる最も大きな原因であり、これらの原因を避けることが一番効果的です。
参考データ
- 1. 国立がん研究センター:受動喫煙による日本人の肺癌リスク 約1.3倍
- 2. 国立がん研究センター がん対策研究所:受動喫煙とたばこを吸わない女性の肺癌との関連について
- 3. Hammond EC, et al. Ann NY Acad Sci 1979; 330: 473-490
- 4. 独立行政法人 環境再生保全機構:石綿(アスベスト)関連疾患
- 5. 国立がん研究センター がん対策研究所:生殖関連要因やホルモン剤使用と女性の肺がんとの関係について
- 6. 国立がん研究センター がん対策研究所:野菜・果物と肺がんリスク
この記事を書いた人
- 特任副院長
- がん化学療法センター長
- 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
- 日本禁煙学会 禁煙専門医(禁煙認定専門指導者)
- 日本呼吸器学会 指導医
- 日本呼吸器学会 専門医
- 日本内科学会 認定医
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医
- 日本臨床腫瘍学会 指導医
- 日本肺癌学会 中国四国支部評議員
- 日本癌学会 禁煙対策委員会委員
- 日本呼吸器学会禁煙推進委員会SNSアドバイザー