禁煙外来で行う治療とは?~禁煙をしましょう
あなたやあなたの知り合いがタバコをやめたいのにやめられなくて悩んでいるのなら、ぜひ読み進めてください。 この記事では、禁煙外来とは何か、どんな人が治療を受けられるのか、禁煙治療の効果、成功率、選び方など、禁煙を成功させるために受けられる治療法について医師が解説しています。また、禁煙治療の期間や費用、保険適用についても紹介していきます。 それではさっそく、禁煙治療の世界に飛び込んでみましょう。
禁煙外来とは
禁煙外来とは、タバコをやめたい人向けにもうけられた専門の外来のことを指します。日本では、2006年から健康保険が適応されるようになり、禁煙外来を開設する病院や医院も増えてきています。 当院では自費診療だった2001年から禁煙外来での治療を行っています。具体的には、喫煙習慣をニコチン依存症という病気としてとらえ、しっかり薬(禁煙補助薬)と心理療法(認知行動療法など)で治療をしていきます。
タバコがなかなかやめられない理由は?
タバコを吸うことで、煙の中に含まれる依存性毒物であるニコチンが、7~20秒で脳内に入ります。ニコチンは中脳の腹側被蓋野という部位にくっつき、その信号が伝わり大脳の側坐核でやる気ホルモン、ドーパミンを放出します。それが、一時的な快感をもたらし依存症となります。
タバコを吸いたくなるのは依存となったニコチンを体が欲するからです。そのためにやめられなくなってしまいます。
ニコチン依存症の治療方法
ニコチンによる依存を(1)身体的依存(体の依存)といいます。身体的依存には、お薬(禁煙補助薬)として、ニコチンパッチ (ニコチネルTTS)(貼り薬)やバレニクリン(チャンピックス)(飲み薬)を使うことで、ニコチン切れで生じる禁断症状(離脱症状)を抑え、楽に禁煙できるようにします。
ニコチン依存症には、身体的依存のほかにも、(2)習慣依存、(3)心理的依存(心の依存)も存在します。
習慣依存に対しては、(認知)行動療法のカウンセリングをします。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究では、習慣化するには平均66日かかったという結果でした。禁煙するということは、タバコを吸う習慣から吸わない習慣に変えていくことなのです。禁煙外来での12週間は、ただ単に薬を使うだけでなく、新しい習慣を作るための訓練期間でもあるのです。
心の依存(心理的依存)は主にはタバコに対する誤った考え(認知のゆがみ)によってもたらされますが、医師とのカウンセリングにて、タバコに対する見方を変えていくことで依存から脱していきます。 禁煙外来では、3つの依存(身体的依存・習慣依存・心理的依存)に対する治療の組み合わせで治療します。
3つの依存に関しては、 「頑張らずにスッパリやめられる禁煙」-サンマーク出版(著者:川井治之)に詳しく書かれています。
保険診療での禁煙外来のリストは下記がよくまとまっています。
禁煙治療を受けることのできる方
禁煙外来は、禁煙を希望する人なら誰でも受診できます。
しかし、禁煙補助薬を使う場合は、それぞれ禁忌(使ってはいけない場合)があります。例えば、ニコチネルTTSでは「妊婦または妊娠している可能性のある婦人、授乳婦」「不安定狭心症、急性期の心筋梗塞 (発症後3カ月以内)、重篤な不整脈のある患者または経皮的冠動脈形成術直後、冠動脈バイパス術直後の患者」「脳血管障害回復初期の患者」「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」は禁忌と説明書には記載があり、使ってはいけないとされています。これは、おもにニコチンの血管収縮作用を心配しての条件となっています。
チャンピックスは、「自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意」と説明書には記載があり、非常にまれではありますが、「めまい、傾眠、意識障害」が起きたとの報告があるために条件が追加となっています。
また、保険適応となるためにはさらに条件が必要ですので、以下の記事で解説します。
禁煙治療の内容や効果
禁煙補助薬の使い方ですが、ニコチンパッチは8週間使用し、残りの4週間はニコチンパッチなしで禁煙を継続するのが標準です。2週間まではパッチを追加も可能です。主治医とご相談ください。チャンピックスは12週間内服し続けます。
ニコチンパッチはタバコのニコチンの代わりにパッチからニコチンを吸収することで、ニコチン切れの禁断症状(離脱症状)を抑え、つらい禁煙から楽な禁煙にできます。
禁煙治療の内容は?
チャンピックスは、ニコチンを含まない内服薬です。脳を刺激して少量のドーパミンを放出させることで、イライラなどの禁断症状を減らす作用があります。また、その一方でニコチンをブロックするため、タバコを吸ってもおいしいと感じにくくなります。
健康保険を使った禁煙治療では、以下のことを行います。
- 保険診療できるかどうか、TDS(ニコチン依存症スクリーニングテスト) などの結果で確認。(次項で説明)
- 呼気一酸化炭素(CO)濃度を測定することで、喫煙量や喫煙状況を客観的に確認し、結果説明。
- 禁煙開始日を相談して決定。
- 禁煙にあたっての問題点の把握とアドバイス。
- 禁煙補助薬(ニコチンパッチまたはチャンピックス) の選択と説明。
禁煙補助薬の使い方ですが、ニコチンパッチは8週間使用し、残りの4週間はニコチンパッチなしで禁煙を継続するのが標準です。2週間まではパッチを追加も可能です。主治医とご相談ください。チャンピックスは12週間内服し続けます。
ニコチンパッチはタバコのニコチンの代わりにパッチからニコチンを吸収することで、ニコチン切れの禁断症状(離脱症状)を抑え、つらい禁煙から楽な禁煙にできます。
チャンピックスは、ニコチンを含まない内服薬です。脳を刺激して少量のドーパミンを放出させることで、イライラなどの禁断症状を減らす作用があります。また、その一方でニコチンをブロックするため、タバコを吸ってもおいしいと感じにくくなります。
禁煙治療の成功率は?
自力で禁煙しようとした場合はいろいろな研究結果から成功率は約10%といわれています 1)。当院での726人のデータ(2002-2019)では、禁煙外来終了時の3カ月の禁煙成功率は65.8%でした2)。禁煙外来を受診することで10人に7人は成功できるわけです。
継続のポイントは、うまくいってもいかなくても2回目以降を受診することです。医師、看護師、保健師が、禁煙の継続をしっかりサポートしていきますので、途中で諦めずに受診してください。
注:2022年12月現在、チャンピックスは出荷停止となっており、ニコチンパッチのみ使用可能となっています。今後の再出荷は未定となっています。
1) Cohen S, Lichtenstein E, Prochaska JO, Rossi JS, Gritz ER, Carr CR, et al. Debunking myths about self-quitting. Evidence from 10 prospective studies of persons who attempt to quit smoking by themselves. Am Psychol. 1989;44(11):1355-65.
2) 川井治之, 野海拓, 宇野真梨, 渡邉一彦, 張田信吾, 奥谷大介, 片岡正文, 大原利憲, et al. 禁煙外来受診患者756名における禁煙達成に影響する因子の検討 禁煙外来18年の統合解析より. 肺癌. 2020;60(6):787.
禁煙治療にかかる費用や期間・健康保険適応の条件
健康保険の適応となる条件
禁煙治療を健康保険で行うための保険適応には条件があります。
- 直ちに禁煙しようと考えていること
- ニコチン依存症のスクリーニングテスト (TDS) が 5 点以上であること
- 35歳以上の場合、ブリンクマン指数 (1 日喫煙本数×喫煙年数)が200以上であること
- 禁煙治療を受けることを文書により同意していること
上記の4つの条件に全てに該当した患者さんです。
また、今までに禁煙外来で治療をされた方は、前回の禁煙外来(保険診療による)初回日より1年以上経過していることも必要です。
35歳未満の方はブリンクマン指数の適応基準がなくなったため、若い方の禁煙導入がしやすくなり、未成年の方も親御さんの同意のもと治療はできるようになりました。
ニコチン依存症スクリーニングテスト(TDS)を以下に示します。ご自身でチェックをしてみてください。
TDS: ニコチン依存症スクリーニングテスト
(※健康保険の適応には依存症の基準である5点以上であることが必要)
設問内容 |
はい |
いいえ (0点) |
|
---|---|---|---|
問1 | 自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまうことがありましたか。 | ||
問2 | 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか。 | ||
問3 | 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、たばこがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか。 | ||
問4 | 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、次のどれかがありましたか。 (イライラ、神経質、落ち着かない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、食欲または体重増加) |
||
問5 | 問4でうかがった症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか。 | ||
問6 | 重い病気にかかったときに、タバコはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか。 | ||
問7 | タバコのために自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。 | ||
問8 | タバコのために自分に精神的問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。 | ||
問9 | 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか。 | ||
問10 | タバコが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか。 | ||
合計 |
治療期間
保険診療での治療期間は12週間で0, 2, 4, 8,12週の5回の通院です。
治療にかかる費用
気になるお値段ですが、健康保険3割負担だと、ニコチネルTTSの場合3カ月で約1.3万円、チャンピックスの場合、約2万円です。 1日あたりだとパッチで約160円、チャンピックスでも約240円です。タバコ1箱は、値上がりによって580~600円くらいになっており、そう思うとタバコ代よりもずっと安いですね。
次のような場合は自費診療となります
- 保険適応の条件に当てはまらないが、同様の禁煙治療を希望される場合
- 全5回の治療をこえて引き続き治療を希望される場合
- 初回の治療開始から1年以内に再度治療を希望される場合
参考リンク
禁煙外来の治療に関するまとめ
禁煙外来では、薬物療法を利用することで、禁断症状を減らし楽に禁煙できます。また、禁煙するためのアドバイスやカウンセリングも受けられるのも利点です。 何よりも一人で禁煙するのではなく、医師、看護師が並走者としてサポート・応援してくれることが禁煙成功率を高めます。ぜひ、禁煙外来で禁煙チャレンジしてみましょう。
この記事を書いた人
- 特任副院長
- がん化学療法センター長
- 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
- 日本禁煙学会 禁煙専門医(禁煙認定専門指導者)
- 日本呼吸器学会 指導医
- 日本呼吸器学会 専門医
- 日本内科学会 認定医
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医
- 日本臨床腫瘍学会 指導医
- 日本肺癌学会 中国四国支部評議員
- 日本癌学会 禁煙対策委員会委員
- 日本呼吸器学会禁煙推進委員会SNSアドバイザー