認知症の人が安心して入院生活を送るための環境づくり

認知症の人にとっての入院とは

認知症の人は入院当日から混乱することがありますが、この背景には身体の不調にくわえて、環境変化によるストレスから不安や寂しさで眠れない状況に陥っていることが挙げられます。病院という環境は、同じような扉が並び、病室に入っても同じ寝具や床頭台という個性のない家具が並んでいます。そのため認知症の人は、自分の病室がわからなくなり、病室を探して歩き回る行動につながり、ここはどこで、なぜ自分がここにいるのか、目の前にいる人が誰なのかわからない状況になりやすいです。言い換えると、言葉もわからない外国に一人取り残されたような状況に似ています。唯一、頼みの綱であるご家族も、COVID-19 の面会制限のため、すぐに帰らざるを得ない状況であり、馴染みの人がいなくなることで、さらに不安が募るのではないかと思います。

入院による環境変化は避けることができませんが、認知症の人が少しでも穏やかに過ごすことができるための環境づくりをしていくことがとても大切です。

認知症の人の愛着のある物が果たす役割

入院時に持ち込める物は限られていますが、認知症の人が日々の暮らしでいつも使用している愛着のある物(例えば:枕、クッション、写真、時計、ぬいぐるみなど)、趣味や得意な物(編み物、ラジオ、DVD、クロスワードパズルなど病室でできるもの)を持参することで、認知症の人が日課を思い出す手助けとなり、慣れ親しんだ環境とのつながりを感じることができ安心感を得ることができます。

実際、入院後に寝たり起きたりを繰り返して落ち着かなかった認知症の人のご家族に、いつも自宅で使用していた化粧瓶を持ってきてもらい、ご本人の床頭台に置いてもらったところ安心して休まれたという例もあります。また、持参された写真を見たり手紙を読み聞いてもらうと、楽しそうにご家族の話をされる患者さんも多いです。

認知症の人の愛着のある物を持参していただくことは、認知症の人の混乱を緩和することにつながり、安心して入院生活を送ることができ、身体の治療をスムーズに受けることにもつながります。

認知症の方が入院される際は、認知症看護認定看護師にご相談ください

認知症看護認定看護師の役割のひとつとして、言葉に出すことが難しくなりつつある認知症の人の代弁者となることがあります。そのため、日頃から患者さんの声に耳を傾けることを大切に心がけています。認知症の人の中には限られた単語のみで自分の思いを表現される方もおられます。そのため、患者さんが発する表情、しぐさ、言葉などから、微細なサインに気づき、日常の中のさまざまな面の不安な気持ちをキャッチして、病棟スタッフと共有しています。そして、日常生活の援助を丁寧に行うことで不安を緩和し、心地よさを提供できるように取り組んでいます。

また、多職種によるチーム医療の取り組みでは、せん妄対策・認知症ケアチームに所属し、医師をはじめ、公認心理師、薬剤師、管理栄養士、リハビリセラピストと協働し、睡眠リズムや生活リズムが整うよう支援を行っています。せん妄対策・認知症ケアチームは、毎週水曜日の午後から病棟回診を行っています。

入院中に可能な範囲内で患者さんが大切にしてきた習慣やこだわりを取り入れることで、その人らしい入院生活が送れるように支援しています。患者さんやご家族からの情報をもとに、支援のヒントとさせていただきますので、入院をされる際は、認知症看護認定看護師まで教えていただけると幸いです。

※本記事は広報誌「やわらぎ」(175号:2022冬)に掲載したものをWEB用に再編集したものです。

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