よりよい手術医療を受けるために~タバコは手術後の回復を妨げる?
皆さん、もし手術を受けることになったらどうしますか?
「先生にお任せです」なんて思っていては、いい結果にはつながりません。よりよい手術治療を行うためには、患者さんやご家族の協力がかかせないのです。
周術期(しゅうじゅつき)とは?
手術中だけでなく、その前後を含めた一連の期間を周術期といいます。
手術中は確かに「先生にお任せ」ですが、術前から禁煙や呼吸練習をして体調を整えたり、術後は早期に離床してリハビリを開始することなどは、ご自身の努力やご家族のサポートにかかってきます。
患者さんとご家族は、周術期チームの一員です。
よりよい状態で手術を受けるために
1.風邪を予防しましょう
外出時はマスクをしたり、手洗いやうがいを行い風邪やインフルエンザを予防しましょう。全身麻酔の手術では、痰が増えると術後に肺炎にもなりやすくなります。
2.普段通りの生活をしましょう
ニコチンには血管を収縮させる作用があります。酸素は血液の流れにのって運ばれるので、血管が収縮すると酸素は十分にいきわたりません。また、血管が収縮することで脳梗塞や心筋梗塞のリスクは、非喫煙者の3~6倍になるといわれます。
3.タバコは絶対にやめましょう
特に全身麻酔で手術を受ける場合は、少なくても1か月の禁煙期間が必要です。タバコを吸う人は、術後の肺炎や心筋梗塞などの可能性が3~5倍になるといわれます。
減煙は効果がありません。確実に禁煙することが大切です。
※術前からの禁煙の重要性についてはこの記事の後半で詳しく解説します。
禁煙に興味がある方は、禁煙外来のページもご覧ください。
より順調な回復のために
1.早めにベットから起きて動きましょう
早く起きて動き始めることは、体力や筋力の低下を防ぐだけでなく、胃腸の回復や肺炎の予防にもつながります。手術の内容や術後の状態により異なりますが、医師や看護師から離床を勧められたら、無理をしない程度に少しがんばって動いてみましょう。
2.我慢しなくていいですよ
痛い、眠れないなど、入院中いろいろ不快なことがあるかもしれません。我慢をせずに看護師に知らせてください。
痛みでリハビリが進まなかったり不眠で生活のバランスが乱れると、回復の妨げになります。
患者さん・ご家族も周術期チームの一員です。
チームで情報を共有するために、困っていること、わからないことなどがあれば私たちに教えてください。
普段の禁煙と術前の禁煙は別物です
多くの方が、禁煙する理由はなんでしょうか。
「将来、がんになりたくない」「家族に嫌がられる」など、さまざまですよね。
少し極端な言い方をすると術前禁煙の目的はただ一つ、「手術から回復までを無事に乗り越えるため」です。
周術期(手術中だけでなく、その前後を含めた一連の期間)における喫煙の影響
1.一酸化炭素の影響による酸欠
呼吸によって取り込まれた酸素は、血液中のヘモグロビンという色素とくっついて体の隅々まで運ばれます。しかし、たばこの煙に含まれる一酸化炭素は、酸素と比べて200倍もヘモグロビンと結びつく力が強いため、酸素が体に取り込まれなくなります。喫煙者は慢性的な酸欠状態です。
2.ニコチンによる血管収縮
ニコチンには血管を収縮させる作用があります。酸素は血液の流れにのって運ばれるので、血管が収縮すると酸素は十分にいきわたりません。また、血管が収縮することで脳梗塞や心筋梗塞のリスクは、非喫煙者の3~6倍になるといわれます。
3.痰の増加と、吐き出す力の低下
喫煙者は、気管に慢性的な炎症を起こしているため、痰の量が増えています。気管の内側には線毛(せんもう)という毛が隙間なく生えており、これが痰を上へとかき出すことで吐き出すことができる(線毛運動という)のです。
しかし、一酸化炭素には線毛の動きを麻痺させる作用があります。そして線毛の動きが回復するには時間がかかります。1本でも10本でも、タバコを吸っている限り回復しません。減煙では効果がないのです。手術後は麻酔の影響で咳をする反射も低下するので、痰を誤嚥(ごえん)※し、肺炎を起こすリスクも高くなります。
※誤嚥…飲食物や唾液などが誤って気道に入ってしまうこと
近年増えてきた加熱式タバコについてはまだデータが少なく、健康に対するはっきりとした影響はわかりません。しかし、タバコ葉を加熱し蒸気を吸引するため、ニコチンが含まれます。
術前は、通常のタバコ同様に禁煙してください。
記事の前半でも、「『先生にお任せです』ではダメですよ」と書きました。どんなに医者がよい手術をしても、患者さんに頑張っていただかなければよい結果にはつながりません。
手術を受ける患者さんの義務だと思って、必ず禁煙をお願いします。
※手術後、順調に回復いただくため、看護師が禁煙を含めて手術までに整えておきたい体調面での準備をわかりやすくお伝えしています。
※本記事は広報誌「やわらぎ」(151号:2018冬号)および(156号:2018晩秋号)に掲載したものをWEB用に再編集したものです。