アトピー性皮膚炎の治療薬について

アトピー性皮膚炎は、かゆみや湿疹しっしんを引き起こす慢性まんせいの病気です。この病気は遺伝的な要素のほか、さまざまな要因が絡み合っているため完全に治すことは難しく、治療の最終目標(ゴール)は症状を抑え、日常生活に支障がなく、薬物療法やくぶつりょうほうもあまり必要としない状態を維持することです。

この数年、アトピー性皮膚炎に対する新しい治療薬が多く開発され、アトピー性皮膚炎の治療が劇的に変化しています。

アトピー性皮膚炎の治療で使われる薬にはどのようなものがある?

色々な薬のイメージ写真

アトピー性皮膚炎の治療では、外用薬や内服薬、注射薬などがあり、患者さんの状態や皮膚の症状に合わせた薬物療法が選択されます。

外用薬がいようやく(塗り薬)

アトピー性皮膚炎の標準治療ひょうじゅんちりょうとされている治療法です。現在、広く使用されている主な薬剤には、ステロイド外用薬、非ステロイド系抗炎症外用薬こうえんしょうがいようやく(免疫抑制剤であるタクロリムス軟膏、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬であるデルゴシチニブ軟膏、PDE4阻害薬であるジファミラスト軟膏)があります。

※外用薬の種類については、この後の項目でより詳しく解説します。

内服薬ないふくやく(飲み薬)

かゆみを抑えるための補助療法ほじょりょうほうとして、抗アレルギー薬が処方されることがあります。薬の種類によっては、副作用として眠気や倦怠感けんたいかんが出ることがあります。

重症化したアトピー性皮膚炎の治療では、免疫抑制機能めんえきよくせいきのうのある内服薬が処方されることがあります。この薬の中には腎臓の働きに影響を与える可能性があるものもあり、医師は腎機能の数値を見ながら使用を判断します。また、新たにJAK阻害薬も使用できるようになりました。

JAK阻害薬は日本皮膚科学会の定める施設で、アトピー性皮膚炎の治療に対して十分な知識のある医師が、副作用に注意し、定期的に必要な検査を行いながら治療にあたるよう定められています。

注射薬

従来の外用薬を用いた治療では十分な効果が認められず、強い炎症を伴う皮疹ひしんが全身などの広範囲に及ぶ患者さんなどを対象に、皮疹やかゆみの原因をブロックする効果のある注射薬(生物学的製剤せいぶつがくてきせいざいなど)が用いられる場合があります。

なお、JAK阻害薬や生物学的製剤による治療はアトピー性皮膚炎の重症度が高い患者さんに対して使用するように決められています。また治療費も高額になります。使用にあたってはかかりつけの医師とよく相談して下さい。

アトピー性皮膚炎の治療で使われる外用薬とは?

アトピー性皮膚炎の治療に使用する外用薬(塗り薬)は、炎症そのものを抑えることで、アトピー性皮膚炎の悪化を抑制します。

腕にクリームを塗る人のイメージ写真

ステロイド外用薬

ステロイド外用薬には炎症を抑える効果があり、アトピー性皮膚炎治療の抗炎症薬として小児から成人まで広く使用されています。

薬の強さに違いはありますか?

ステロイド外用薬は、作用の強さによってⅠ群(強い)~Ⅴ群(弱い)の5段階に分類されており、医師は患者さんの症状や部位に合わせて適切な薬剤を選択し、処方しています。

ステロイド外用薬のランク


分類一般名代表的な製品
ストロンゲスト(Ⅰ群)
<最も強い>
  • 0.05% クロベタゾールプロピオン酸エステル
  • 0.05% ジフロラゾン酢酸エステル
  • デルモベート®
  • ダイアコート®
など
ベリーストロング(Ⅱ群)
<とても強い>
  • 0.1% モメタゾンフランカルボン酸エステル
  • 0.05% ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル
  • 0.05% フルオシノニド
  • 0.064% ベタメタゾンジプロピオン酸エステル
  • 0.05% ジフルプレドナート
  • フルメタ®
  • アンテベート®
  • トプシム®
  • リンデロンDP®
  • マイザー®
など
ストロング(Ⅲ群)
<強い>
  • 0.3% デプロドンプロピオン酸エステル
  • 0.1% デキサメタゾンプロピオン酸エステル
  • 0.12% デキサメタゾン吉草酸エステル
  • 0.12% ベタメタゾン吉草酸エステル
  • 0.025% フルオシノロンアセトニド
  • エクラー®
  • メサデルム®
  • ボアラ®,ザルックス®
  • ベトネベート®,リンデロンV®
  • フルコート®
など
ミディアム(Ⅳ群)
<ふつう>
  • 0.3% プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル
  • 0.1% トリアムシノロンアセトニド
  • 0.1% アルクロメタゾンプロピオン酸エステル
  • 0.05% クロベタゾン酪酸エステル
  • リドメックス®
  • レダコート®
  • アルメタ®
  • キンダベート®
など
ウィーク(Ⅴ群)
<弱い>
  • 0.5% プレドニゾロン
  • プレドニゾロン®
など
(2021年3月現在)日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021を参考に作成

薬の形態によって違いがありますか?

ステロイド外用薬には軟膏、クリーム、ローション、テープ剤などさまざまな形態があります。

基本的には軟膏なんこうが処方されることが多いですが、頭部にはローション、症状の重症化した皮膚にはテープ剤など、使用する部位や状況に合わせて処方される場合もあります。

副作用はありますか?

ステロイド外用薬を長期にわたって使用した場合、局所的きょくしょてきに皮膚に副作用が出ることがあります。
具体的には、皮膚が薄くなって毛細血管が目立つようになったり、出血斑しゅっけつはんが出やすくなります。顔面では赤ら顔になりやすくなります。その他、ニキビが出やすくなったり、毛が濃くなる、皮膚の感染症(とびひや単純ヘルペス)をおこしやすくなることもあります。ごくまれにですが、強力なステロイド外用剤を多量に使用した場合、高血圧や脂質異常症ししついじょうしょう高脂血症こうしけっしょう)、満月様顔貌まんげつようがんぼう(顔に脂肪が沈着して満月のように丸くなった状態のこと)、クッシング症候群などの全身性の副作用がおこる可能性もあります。

また、皮膚の薄い眼の周りに強い薬を塗ると、眼圧上昇がんあつじょうしょう緑内障りょくないしょうのリスクが高まることも報告されています。
薬の副作用を防ぐためには、自己判断で使用を中断したり、使う量を変更したりせず、医師から指示された量・塗る範囲・使用期間を守ることが非常に重要になります。

症状が落ち着いたら使用をやめて良いですか?

薬を塗る際は、医師から指示された量、範囲、期間をしっかり守ることが大切です。症状が落ち着いたからといって自己判断で使用を中止すると、症状が再びぶり返すことがあります。

タクロリムス軟膏(免疫抑制剤めんえきよくせいざい

細胞内にはカルシニューリン(calcineurin)という酵素こうそがあり、この酵素が活性化すると免疫細胞めんえきさいぼうであるT細胞の働きが活発になり、炎症を引き起こす原因となります。タクロリムス軟膏は、この酵素が働かないように作用することで炎症を抑えるため、アトピー性皮膚炎による皮疹を改善効果が期待されています。

どのような部位に使用できますか?

ステロイド外用剤の副作用が出やすい顔や首の皮疹に使われることが多いです。

ただし、びらん(炎症によって皮膚や粘膜の表面が破れ、小さな裂け目や傷ができた状態)潰瘍面かいようめん(皮膚の表面が傷ついて傷口が深くなり、組織が壊死した状態)には使えません。それらの状態が改善された後(例えばステロイド外用薬などで皮膚の状態を改善した後)に使用し、長期に良い状態を保つことを目的として使用します。

子どもにも使えますか?

タクロリムス軟膏には、成人用(16歳以上)の0.1%軟膏と、小児用(2~15歳)の0.03%軟膏があります。

また、1回あたりの使用量の上限が定められているため、使用する際には医師の指示を守ることが重要です。2歳未満の小児には使用できません。

副作用はありますか?

使用部位にほてり感やかゆみを感じることがありますが、皮疹の状態が良くなると消えることが多いです。

デルゴシチニブ軟膏(JAK 阻害外用薬そがいがいようやく

デルゴシチニブ軟膏は細胞内の情報伝達を抑制する薬で、2020年に初めて日本で承認・販売されました。

細胞内にはサイトカインという情報伝達物質が存在します。サイトカインが異常に働くと免疫反応が必要以上に活性化し、かゆみや湿疹といったアトピー性皮膚炎の症状があらわれます。この薬はサイトカインの働きを抑え、アトピー性皮膚炎の症状をやわらげる手段として使用されます。

生後6ヶ月から使用できます。
1日あたりや1回の使用量が定められてるため、使用にあたっては医師の指示を守ることが重要です。

ジファミラスト軟膏(PDE4阻害外用薬)

ジファミラスト軟膏はPDE4阻害薬という、2021年に承認・発売された新しい外用剤です。

細胞には炎症がおきると、炎症を抑えるための信号を出す機能があります。
PDE4はこの働きを抑制して、より炎症を増幅する酵素です。この薬ではPDE4の働きを阻害することにより、炎症を抑える信号を上昇させて、アトピー性皮膚炎の炎症とかゆみを改善します。また皮膚のバリア機能を改善する効果もあるとされています。

生後3ヶ月から使用でき、使用量の制限はありません。

タクロリムス軟膏・デルゴシチニブ軟膏・ジファミラスト軟膏の特徴

タクロリムス軟膏・デルゴシチニブ軟膏・ジファミラスト軟膏は、非ステロイド系抗炎症外用薬こうえんしょうがいようやくと呼ばれ、ステロイド外用剤でみられる"皮膚を薄くする"などの副作用がなく、長期に安全に使用することができます。

しかし、ステロイド外用剤に比べて、効果がでるまでにやや時間がかかるのが特徴です。

その他:非ステロイド系消炎外用薬しょうえんがいようやく

非ステロイド系の消炎外用薬(NSAIDs外用薬)もアトピー性皮膚炎の治療に使用されることがあります。しかし、その抗炎症作用はステロイド外用薬に比べて極端に弱く、副作用として接触皮膚炎せっしょくひふえんを引き起こし、湿疹が悪化する可能性があります。

皮膚の様子をみる人のイメージ写真

リアクティブ療法とプロアクティブ療法

リアクティブ(reactive)療法とプロアクティブ(proactive)療法は、アトピー性皮膚炎の再発を予防する治療法です。

リアクティブ療法

アトピー性皮膚炎の炎症が再燃した時に、抗炎症外用薬を使って炎症をコントロールする方法をリアクティブ(reactive)療法といいます。

プロアクティブ療法

プロアクティブ療法では、急性期の治療で症状を落ち着かせた後、保湿外用薬ほしつがいようやくを使ったスキンケアに加えて、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏・デルゴシチニブ軟膏・ジファミラスト軟膏を週2回などの間隔で塗ることで、寛解状態かんかいじょうたい(症状がやわらいでいる状態)を保つことが目指されています。

アトピー性皮膚炎治療におけるリアクティブ療法とプロアクティブ療法のイメージ図
日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021を参考に作成

アトピー性皮膚炎は症状が良くなったように見えても、体の中では炎症が残っており、アレルギー反応や体調などの外的または内的な要因によって、再び炎症が引き起こされやすい状態であることが多い皮膚疾患です。この潜在的な炎症が残っている期間に、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの抗炎症外用薬によるプロアクティブ療法を行うことで、炎症の再発を予防できることがあります。

ただし、薬を塗る頻度を変更する際には、検査値や症状の改善状況を注意深く確認しながら行う必要があり、専門の医師と相談しながら行うことが大切です。

また、プロアクティブ療法を行っている間も、保湿外用薬などによる毎日のスキンケアが重要です。

まとめ

アトピー性皮膚炎は、適切な治療を行えば安定した状態を維持できる病気です。アトピー性皮膚炎の炎症を速やかにかつ確実に鎮め、症状の緩和と日常生活の質の向上させるためには、医師から出された薬を、必要な量・範囲・期間を守って塗ることが大切です。

また、アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は乾燥しやすいため、日常的な保湿ケアも重要なポイントになります。特に乾燥する季節や暖房の効いた部屋では、意識的に保湿をしましょう。アレルギー物質など、アトピー性皮膚炎を悪化させる要因を特定し、こまめに掃除を行うなど対策を行うことも大切です。

参考データ

日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021

この記事を書いた人

吉富 惠美よしとみ えみ


所属

診療部長、褥瘡対策チームリーダー

専門分野

皮膚科一般

資格

  • 日本皮膚科学会皮膚科専門医
吉富医師

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