変形性膝関節症とは?痛みなどの症状や治療、予防法と対策も網羅
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減るために膝の痛みや腫れが生じ、膝関節の動きが悪くなり歩行しづらくなる疾患です。
日本では現在約800万人が膝の痛み・腫れなどの症状を抱えているといわれています。また、人口の5分の1にあたる約2,500万人の膝関節に、レントゲンで診断可能な変形があると推定されています。実際に、人工膝関節置換術は年間約9万件(2022年)行われており、今後もますます増加することが予想されます。
変形性膝関節症を放置した場合、将来的に介護を要する状態になるリスクが約6倍ともいわれています(変形性膝関節症診療ガイドライン2023より)。このため、日常生活を維持するためには発症や進行を予防し、適切に診断・治療を行っていくことが重要です。
このページでは変形性膝関節症の原因や進行の仕組み、治療法、早期から予防するためのポイントについて解説します。
膝関節の仕組み
膝関節は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの太い方の骨)、そして膝蓋骨(大腿骨の前面にあるお皿のような骨)で構成されています。
これらの骨の表面は「軟骨」組織で覆われ、軟骨が滑らかに動くことでスムーズな動作を可能にしたり、衝撃を和らげたりしています。
また、半月板は大腿骨と脛骨の間にある「C」の形をした軟骨組織で、関節の安定性や衝撃吸収の役割を果たしています。
変形性膝関節症の原因
変形性膝関節症は、膝関節の滑らかな動きを可能にする軟骨が、長年の使用と負担の蓄積によってすり減ることで起こります。
一般的に、加齢に伴って半月板の柔軟性は低下し、変性や断裂がおこります。そうなると膝の安定性や衝撃吸収機能が低下し、軟骨が次第にすり減っていきます。
また、日本人はもともと軽いO脚の方が多く、膝関節の内側に負担がかかりやすい傾向があります。
膝関節の内側に負担がかかり続けると、徐々に内側半月板が関節の外に押し出され(半月板逸脱)、軟骨がすり減ります。軟骨がすり減ると、次第に骨の出っぱり(骨棘)を形成します。進行すると、骨棘が増生し変形が目立つようになります。
さらに軟骨がすり減り膝関節の内側の隙間が狭まることで、O脚が進行していきます。
O脚になるイメージ
一般的に、変形性膝関節症は肥満の方、女性、筋力の弱い方、O脚(内反膝)やX脚(外反膝)の傾向がある方、膝に過度な負荷がかかりやすい方(スポーツ選手や肉体労働者)で発症リスクが高いといわれています。
変形性膝関節症の原因と症状については下記のページでさらに詳しく解説しています。
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変形性膝関節症になると痛みなどで日常生活に影響がでることがあります。変形性膝関節症はどのようにして発症するのでしょうか。どのような人がなりやすいかについても、解説します。
変形性膝関節症の診断
変形性膝関節症の診断は、問診と診察・画像検査を組み合わせて行います。
問診では、痛みの程度や症状が出た時期、日ごろの生活習慣などをお聞きします。
診察では、診察室に入ってくる様子を観察し、膝を触診して痛みを感じる部位や膝の安定性を確かめます。
そして画像検査(レントゲン・MRI)の結果を確認し、原因を特定します。
レントゲンは荷重位(立った状態)で撮影することで、より詳しく関節の隙間やO脚やX脚の有無の評価が可能です。
実際に膝の症状が出現してからレントゲンで変形の兆候が現れるまでに数か月以上かかるとされており、早期に軟骨摩耗や半月板の変性や断裂などの病態を診断するにはMRIが有用です。また、超音波検査を用いることで、半月板逸脱や炎症の有無を評価することが可能です。
変形性膝関節症の治療
太ももの筋トレと減量は必須です
医師は患者さんと相談し、症状の進行度や生活スタイルに応じた治療法を検討します。
基本的には膝の痛みを改善する保存治療が選択されますが、保存治療では十分な効果が見られない場合や、半月板に変性・断裂があり今後数年で病状の悪化が予想される場合、保存治療ではすでに効果が期待しづらい場合には手術が検討されます。
どの治療を選択する場合でも、運動療法(大腿四頭筋訓練など)と体重管理(減量)は症状を改善する上で欠かせません。
薬や注射、装具で負担を軽減
初期段階では、痛み止めの内服薬や外用薬を使用します。
関節内の軟骨や半月板を保護するために、ヒアルロン酸関節内注射を一定期間継続して行うこともあります。
また、足底板や膝装具の装着により、物理的に膝の負担軽減を図ります。
変形が軽度~中等度の方においては、PRP療法(自己多血小板血漿療法:患者さん自身の血液から抽出した血小板・修復因子を関節内に注入し炎症を鎮める ※自由診療)により、痛みや腫れを持続的に軽減する効果が期待できる場合もあります。
最近では早期から手術治療も
手術治療には、O脚(内反膝)・X脚(外反膝)を矯正し、荷重のバランスを整える膝関節周囲骨切り術(主に脛骨近位骨切り術)と、傷んだ関節表面をインプラントに置き換える人工膝関節置換術があります。
膝関節周囲骨切り術(脛骨近位骨切り術)
脛骨近位骨切り術は、内側に傾斜した脛骨関節面(主なO脚の原因)を、骨切りして直角近くまで矯正し、プレートとスクリューで固定して膝関節内側にかかる負荷を軽減する手術です。
膝関節周囲骨切り術(主に脛骨近位骨切り術)は軽度~中等度の変形で、肉体労働やスポーツを希望される40~60歳代の患者さんに適しています。
最近では、加齢によって半月板が変性し断裂を伴う場合(内側半月板後根断裂など)、O脚を伴う患者さんに対しては半月板が治癒しやすい環境を整えて変形の進行を抑制するために、関節鏡手術と同時に骨切り術が行われることが増えてきています。
人工膝関節置換術
人工膝関節置換術には、膝関節全体の表面を人工関節に置き換える手術(TKA:全置換術)と、膝関節の内側や外側の一部を置き換える手術(UKA:単顆型置換術)があります。
人工膝関節置換術は変形性膝関節症が進行し、保存治療で改善しない70歳以上の方に適しています。2022年には国内で年間9万件弱行われ、今後ますます増えることが予想されます。最近ではロボット支援手術が行える施設も少しずつ増えてきており、これまで以上に個々の患者さんにあわせた手術が可能となってきています。
TKAは術後の痛みが比較的強いといわれていますが、最近は神経ブロックや複数の鎮痛薬を併用することで、痛みが軽減されるようになりました。手術翌日から歩行訓練を行い、2~3週間で退院できるようにリハビリを進めていきます。
UKAは膝関節の一部分のみ(主に内側)を置き換えるため、TKAと比較して膝の靭帯機能を損なわず自然な膝の動きが残ります。術後の腫れや痛みも少なく、通常は術後1~2週間で退院が可能です。
これら変形性膝関節症の診断と治療については、下記のページで詳しく解説します。
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変形性膝関節症の治療では、患者さんの状態に応じて保存治療と外科手術などが選択されます。
このページでは、変形性膝関節症の診断と治療について、詳しく解説します。
自分でできる予防法 〜 変形性膝関節症の予防と進行を遅らせるために
変形性膝関節症の予防や進行を遅らせるために、以下のポイントに気をつけて生活しましょう。
適切な体重管理を行いましょう
肥満は膝に大きな負担をかけ、関節の摩耗を進める要因となります。膝関節にかかる負荷は、体重が増えるごとに増加します。
減量は治療効果が大きく、重要な治療の一つです。
適切な食事管理と運動で、持続可能な減量(マイナス1~2kg/月)や体重維持を心がけましょう。
適切な運動をしましょう
膝関節の可動域と筋力を維持することが、変形性膝関節症の進行を防ぐために有効です。
特に、大腿四頭筋の強化は膝の安定性を保ち、関節への負荷を軽減します。
激しいランニングや跳躍などは、かえって膝に過度な負担をかけることがあります。水泳やウォーキング、ストレッチなどの負荷の低い運動を継続的に行うようにしましょう。
日常生活での姿勢や動作に注意しましょう
日常生活の中で、膝に過剰な負担をかけないようにすることが大切です。
正座やしゃがむ動作は膝(半月板)に大きな負担をかけるため、これらの動作を頻繁に行うことは避けましょう。
また、階段の上り下りも膝に負担がかかりやすいため、手すりや杖を使ってサポートするようにしましょう。
膝の痛みには関節内が原因の痛みと筋肉・腱由来の関節外から生じる痛みがあり、両者が混在することも少なくありません。
原因によって治療法が異なりますので、膝の痛みが改善しない場合はお近くの膝関節外科を専門とする医師にご相談ください。
この記事を書いた人
釜付 祐輔(かまつき ゆうすけ)
所属
資格
- 日本整形外科学会 専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター