腰椎すべり症の治療について
腰椎は背骨のうち、腰の部分にある骨のことを指します。腰椎すべり症になると、腰椎がずれることで神経が圧迫され、さまざまな症状が現れます。例えば日常動作の中で、立ったり歩いたりしていると、お尻や太ももが痛くなったり、しびれが出たり、歩けなくなったりして、生活に支障をきたすようになります。多くの場合、安静にすることで症状はやわらぎますが、重症になると専門の医療機関で手術が必要になることがあります。
腰椎すべり症では、どのような治療があるのでしょうか。またどのような場合に手術が行われるのでしょうか。
このページでは、腰椎すべり症の原因から治療方法について、詳しく解説します。
- 0.1. 腰椎の場所と役割
- 0.2. 腰椎すべり症の原因と症状
- 0.2.1. 変性すべり症
- 0.2.1.1. 原因
- 0.2.1.2. 主な症状
- 0.2.1.3. 特徴
- 0.2.2. 分離すべり症
- 0.2.2.1. 原因
- 0.2.2.2. 主な症状
- 0.2.2.3. 特徴
- 0.3. 腰椎すべり症の診断と検査
- 0.4. 腰椎すべり症の治療
- 0.4.1. 保存療法
- 0.4.2. 手術療法
- 0.4.2.1. 腰椎除圧術ようついじょあつじゅつ(腰椎椎弓形成術ようついついきゅうけいせいじゅつ)
- 0.4.2.2. 腰椎固定術ようついこていじゅつ
- 0.4.2.2.1. 関連記事
- 0.5. 腰椎すべり症の手術後の生活
- 0.6. 腰椎すべり症の予防と、やってはいけないこと
- 0.6.1.1.1. 参考サイト
腰椎の場所と役割
人の背骨には「体を支える」、「体を動かす」、そして「神経を保護する」という機能があります。背骨は1本の骨ではなく、椎骨と呼ばれるブロック状の骨がいくつも積み重なってできています。このような構造のため、体を丸めたり背中をそらしたりという動きが可能になっています。
椎骨は上から順に、頸椎、胸椎、腰椎、仙骨、尾骨で構成されていて、それぞれの骨同士は椎間板や椎間関節、靭帯によってつながっています。
腰椎はその名の通り、腰の部分にあたる骨のことを指します。
腰椎は重い上半身を支えたり、体をかがめたり伸ばしたりするなどの日常動作に大きく関わる大切な部分である一方で、負担のかかりやすい部位でもあります。
腰椎を含む椎骨は、おなか側の「椎体」と背中側の「椎弓」で構成されています。椎体と椎弓によって囲まれた穴の部分を「脊柱管」といい、大切な神経の通り道となっています。
また、骨と骨の間でクッションの役割をしている部分を「椎間板」と呼びます。
腰椎すべり症の原因と症状
腰椎すべり症とは、何らかの原因によって腰椎が前方に滑り出てしまうために、さまざまな症状が引き起こされる病気です。
腰椎は通常5個ありますが、まれに6個の人や4個の人もいます。腰椎すべり症は多くの場合、第4番目と第5番目の間でずれが生じることが多いとされています。
腰椎すべり症は大きく分けて「変性すべり症」と「分離すべり症」に分けられます。それぞれ、発症する原因は異なりますが、同じような症状があります。
変性すべり症
原因
明らかな原因は不明ですが、多くの場合、加齢などにより腰椎と腰椎の間にある椎間板が変形して骨同士のつながりが不安定になり、椎体がずれることで起こるとされています。
女性に多く見られることから、加齢による女性ホルモンの減少が、骨の「体を支える」機能に影響を与えているという意見もあります。また、もともと骨の形や傾きが前方にすべりやすい体質であるという可能性も考えられています。
主な症状
腰痛、お尻や下肢の痛み など。
- 軽度のずれの場合は、無症状の場合もあります。
- 腰椎のずれにより脊柱管を通る神経が圧迫されている状態(腰部脊柱管狭窄症)の場合、間欠性跛行といって、歩行中に足が痛んだり、しびれたり、力が入らなくなることがあります(一定時間を休むとまた歩けるようになります)。
- さらに重度になると、排尿障害などの症状が出ることもあります。
特徴
40歳以上の中高年の方に多くみられます。
分離すべり症
原因
分離すべり症は、先に腰椎分離症という状態になることが原因で生じます。
腰椎分離症とは、腰を後ろに反らせたりひねったりなど、腰部に負担がかかる動作を繰り返し行うことによって、椎弓の一部が疲労骨折を起こし、椎体と椎弓が分離する状態のことをいいます。
この腰椎がつながっていない状態を放置することで腰椎がずれて、分離すべり症へと移行します。
主な症状
腰痛、お尻や下肢の痛み など。
- 腰を反らすなど、分離した部分に負荷がかかる動作をすると、痛みが強くなることがあります。
- 神経が椎間孔(腰椎から横に向かって伸びている神経が通る孔 のこと)で圧迫されている場合、下肢のしびれや痛みが出ることがあります。
特徴
骨の成長過程期(10代)に激しい運動をしている方、スポーツ選手などに多くみられます。
腰椎すべり症の診断と検査
腰椎すべり症の診断では、まず問診を行い、いつから、どの部分が、どのように痛むかを詳しくお聞きします。その後、X線検査(レントゲン)で体の正面や側面を撮影して腰椎の状態を確認します。患者さんの中には、前かがみになった時にだけずれが生じる方もいるため、腰を曲げた姿勢で撮影をすることもあります。腰椎のずれが確認できた場合、さらに神経が圧迫されているかなどを詳しく調べるために、MRI検査や脊髄造影CT検査などを行うことがあります。
下肢の痛みやしびれといった症状は、椎間板ヘルニアや脊髄腫瘍、閉塞性動脈硬化症などの他の病気が原因で起こることもあるため、これらの検査や病気の診断は慎重に行われます。
腰椎すべり症の治療
腰椎すべり症の治療では、患者さんの状態に応じて「保存療法」や「手術療法」が選択されます。
保存療法
腰椎すべり症は多くの場合、安静にしたり、コルセットなどで腰にかかる負担を軽減したりすることで症状は治まってきます。強い痛みが続く場合は、消炎鎮痛剤(炎症を抑えて痛みを和らげる薬)などの内服や、ブロック注射(痛みのある神経の近くに局所麻酔薬を注射する)を使うこともあります。また、腰にかかる負担を軽減するため、腰回りやおなかの筋力を鍛えるストレッチやリハビリを行うことも効果的といわれています。
手術療法
腰椎すべり症の患者さんすべてが手術を選択されるわけではありません。手術の対象となるのは、保存療法では症状が改善せず、腰痛や下肢の痛みやしびれのため日常生活に大きな支障がでたり、神経圧迫によって歩行障害などの重度な症状がでたりする場合に、医師が患者さんと相談して決定します。手術は、ずれの程度や状態によって、神経の圧迫を取る手術(除圧術)や、ずれた腰椎を固定する手術(固定術)が行われます。
腰椎除圧術(腰椎椎弓形成術)
神経が圧迫されている部分の椎弓を削ることで神経の通り道を広げ、神経の圧迫を解放する手術です。
手術方法は真ん中から脊柱管を拡大する方法と、片側から両側を拡大する方法があります(下図参照)。当院では前者の場合、筋肉をはがさない方法(MILD法)を採用しています。
腰椎すべり症のうち、すべりを起こしている部分が不安定な状態である場合には、椎骨がさらにずれないように固定するための手術(下記参照)も併せて行います。
腰椎固定術
不安定な腰椎の状態を改善するための手術で、腰椎をボルトなどで固定します。腰椎除圧術によって神経への圧迫を解消したあと、自身の骨や人工骨を混ぜ合わせたものを、ケージという金属などの箱に詰め、椎体の間に挿入します。これにより、上下の椎体が結合するようにします。さらに、椎弓根にスクリューという器具を打ち込み、できるだけずれを強制した後に、上下のスクリューにロッドを連結して、より強力に固定します。
固定術にはさまざまな方法がありますが、医師は患者さんや、患者さんの骨の状態に合わせて手術方法を選択します。
腰椎すべり症の手術後の生活
腰椎すべり症の手術では、一般的に翌日からコルセットをつけて歩行を始めることができ、問題がなければおよそ手術後10日程度で退院が可能です。
しかしながら手術をした腰椎が癒合して安定するまでには時間がかかります。術後しばらくは、重たいものを持つ、腰をひねる、曲げるなど、腰に負担がかかる動作を控える必要があります。
運動や仕事の再開時期は、医師の指示に従うようにしましょう。また、同じ姿勢でいつづけけること、体重の増加も腰に負担がかかる場合がありますので、十分に気をつけましょう。
腰椎すべり症の予防と、やってはいけないこと
腰椎すべり症は現在のところ残念ながら、効果の明確な予防法はありません。
しかしながら、日頃からおなかや腰回りの筋肉を鍛えたり、ストレッチを行ったり、正しい姿勢を保つことで腰への負担を軽減することが可能です。
腰椎すべり症でやってはいけないこと
- 重い荷物を持ち上げる
- 長時間、座りっぱなしの姿勢を取る
- 過度に腰をひねる、反らすような動きをする
重い荷物は分けて運ぶ、落ちたものを拾う際は膝からしゃがむなど、日常的な動作でも腰への負担を軽減するような方法・姿勢を心掛けるようにしましょう。
また、日常生活に支障をきたすほどの痛みやしびれといった症状がある場合には、我慢をせず、早めに医療機関を受診し医師に相談しましょう。
参考サイト
日本脊髄外科学会(http://www.neurospine.jp/)
日本脊椎脊髄病学会(https://ssl.jssr.gr.jp/)
日本整形外科学会(https://www.joa.or.jp/)
この記事を書いた人
- 特任副院長
- 脳神経外科部長・脊髄脊椎外科部長
- 日本脊髄外科学会 認定医
- 日本脳神経外科学会 専門医
- 日本脊椎脊髄病学会 脊椎脊髄外科専門医
- 日本脊髄外科学会 代議員