膵臓(すいぞう)の外科手術について
膵臓はどこにあり、何をしている臓器でしょうか。
下記の図は、胃を除いた内臓の図です。膵臓はおたまじゃくしのような形で、頭にあたる部分を膵頭部、しっぽ側を膵尾部、その間を膵体部と呼びます。
膵臓には、食べたものを消化する酵素を含む膵液を出したり、血糖値を下げる働きをするホルモンを出したりする機能があります。
※膵臓の働きについては下記の記事をご覧ください。
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膵臓はの奥深くにあって、直接ふれることはできません。また、周りを重要な血管や神経、リンパ組織などが囲んでいるため、難しい手術になることが多い臓器です。
手術が行われる膵臓の病気には、膵臓がん、膵神経内分泌腫瘍などがあります。また、膵臓のまわりにある他の臓器のがん(胆道がん、十二指腸がん、胃がんなど)や、膵臓が外傷を受けた場合などにも手術が行われることがあります。
今回はそれらの中でも特に件数の多い膵臓がん手術を中心に、膵臓手術について詳しく解説します。
膵臓手術の種類について
膵臓の手術には、
- 膵頭部切除術
- 膵体尾部切除術
- 膵全摘術
- 膵中央切除術
- 膵核手術
- 部分切除術
など、さまざまな種類があります。
膵臓がん手術の場合は、腫瘍ができた場所によって手術の種類が変わります。
ここでは、膵頭部切除術および膵体尾部切除術について解説します。
膵体尾部切除術
膵体尾部切除術とは、膵臓のしっぽ部分にあたる膵体尾部を切除する手術で、膵臓手術の中で2番目に件数の多い手術です。この手術では脾臓も一緒に切除することが多いですが、疾患によっては脾臓を残すこともあります。基本的に切除のみで手術は終了します。
合併症について
膵体尾部切除術では、切除によって膵臓のインスリンを分泌する機能が大きく低下するため、手術後に糖尿病を発症するケースがみられます。
そのような場合には、糖尿病の治療が必要になります。
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膵頭部切除術(膵頭十二指腸切除)
膵頭部切除術は、膵臓手術の中で最も件数の多い手術です。
この手術では膵頭部と一緒に十二指腸、胆管、胆嚢も切除します。場合によっては胃の一部を切除することがあります。そのため、切除だけでなく切り離した膵臓や胆管、十二指腸(または胃)をそれぞれ小腸とつなぎ合わせる手術(再建手術)が必要となります。
このように、難易度が高く複雑な手術のため、手術時間が長くなることがあります。
合併症について
十二指腸は、胃で消化された食べ物をさらに消化する働きを行う重要な臓器です。
この臓器も一緒に切除するため、手術後は食物の消化や吸収に影響がでます。
具体的には、下痢をしやすくなったり、消化不良で栄養不足となり、体が弱りやすくなったります。
膵臓がんの手術について
現在、日本のがん死亡者数のうち、膵臓がんは第4位となっています。膵臓がんの特徴は治りにくく、亡くなられる方の割合が非常に多いことです。
膵臓がんが発見されると、医師は患者さんにあった治療方針を検討します。膵臓がんの場合、治療方法は病期(ステージ)だけでなく、「切除可能性分類」に基づいて検討されます。
切除可能性分類
切除可能性分類では膵臓がんの状態を、次の3つに分類しています。
- 切除可能型:手術でがん病変がすべて切除できると考えられる
- 切除可能境界型:がんが周囲にある動脈などの大切な血管を巻き込んでいる等の理由により、手術でがん病変を切り取れるか判断が難しい。再発の可能性が高く、手術以外にプラスアルファの治療が必要になる
- 切除不能型:手術ではがん病変は取り切れない
医師は患者さんのCTやMRIなどの画像検査などから、がんの発生場所やどの進行度にあたるかを確認し、患者さんと相談しながら治療方針を決定します。
膵臓がん手術と術前化学療法・術後補助化学療法
以前の膵臓がん手術では、がん病変の周囲を大きめに切除して、がんを徹底的に取り除くという方法がとられていました。しかし、この方法では予後があまり良くないというとがわかってきました。やがて、手術範囲を狭めて病変を切除し、手術後に補助化学療法(抗がん剤治療)を行う方法がとられるようになりました。
現在ではさらに進んで、手術前から化学療法や放射線治療を行い、可能な限りがんを小さくした上で範囲を絞って手術を行い、手術後に再度、化学療法などの術後補助療法を行う治療方法が用いられています。
このように、現在の膵臓がんの治療では、さまざまな方法を組み合わせて行う集学的治療が行われています。
当院で行われた切除可能境界型の手術では、手術前から化学療法を行った場合の術後5年後の生存率は、切除可能型と比べて大きな差はなくなっています。このことからも、切除可能境界型の膵臓がん手術の場合は、術前療法を行った方が、行わない場合に比べて生存率が改善されていることがわかります。
現在では、切除可能型の膵臓がんに対しても術前療法を行うようになってきており、手術後の結果がさらによくなることが期待されています。
このように、膵臓がんの治療法はどんどん進歩しており、今後も生存率はますます良くなることが期待されます。また、切除不能型の膵臓がんであっても、化学療法と手術の併用によって生存されている方もいます。
手術ができない膵臓がんと言われても、長期生存を実現できる場合もありますので、諦める必要はありません。
膵臓がん手術のQ&A
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どのような方が、術前療法の対象とされますか?
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基本的に、膵臓がん手術が予定される全ての患者さんが、術前療法(手術前に抗がん剤治療や放射線治療を行う)の対象となります。
当院の場合は、術前療法として抗がん剤治療を単独で行っていますが、施設によっては放射線療法を加えることもあります。どちらの方法が優れているかはまだ明らかにされていませんが、手術のみを単独で行うより、化学療法や放射線療法などを組み合わせたほうが予後の成績が良いことはわかっています。
※しかし、次のような場合には術前治療を行わない場合があります。
- 膵臓がんの確定診断がついていない方(あくまでもがんが強く疑われるが、がん細胞が明確に検出されていない方)
- 抗がん剤などにアレルギーのある方
- がんから出血が続いているなどの理由により、早期手術の必要がある方
など。
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膵臓がんのロボット支援下手術とはどのような手術ですか?
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膵臓がん手術では、ロボット支援下手術が選択されることがあります。
当院にもDaVinci(ダ・ヴィンチ)という手術ロボットが導入されています。ロボット支援下手術では、外科医はサージョンコントロールという部分で高解像度3D画像を見ながらロボットを操作します。ロボット支援下手術は、肉眼の6~10倍の拡大画像をみながら手術を行うことができるため、非常に細かい操作が可能です。また、手ぶれ防止機構がついているため、手元が震えることもありません。人間の関節にはできないような方向にも動いてくれるので、非常に細かく精密な手術を行うことが可能です。
※ロボット支援下手術の様子は下記の動画をご参考ください。
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膵臓がんの手術を受けることになりました。手術までに気をつけておくことはありますか?
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膵臓がんの治療では、化学療法(抗がん剤治療)の役割が大きくなり、投与期間も長期化しています。しかしながら、副作用として口内炎ができやすく、口からの食事が摂りづらくなることがあります。
加えて、手術で膵臓を摘出することにより、消化吸収機能が低下することがあります。栄養不良で体が痩せて入れ歯があわなくなると、さらに食べることが困難になり、低栄養状態が進むという悪循環が起こることもあります。また、低栄養状態になると、術後の抗がん剤治療を行うことができなくなってしまいます。
これらのことを可能な限り防ぐため、手術前から食生活を整えたり、適度な運動を行ったり、虫歯の治療や入れ歯の調節を行うなど、日常生活を整えておくことが大切です。そうすることで、手術後の回復も早めることにもつながります。
まとめ
膵臓がんはかなりの強敵のため、患者さんが一人で立ち向かうのは困難です。もちろん、実際に病気と闘うのは患者さん本人ですが、ご家族やご親戚、ご友人の支えや励ましが味方になります。病院では、外科医、内科医、放射線科医、麻酔科医などの医師の他、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士、ソーシャルワーカーなど、いろいろな職種のスタッフが一緒に病気と闘います。
膵臓がんは、現在では不治の病ではなくなってきています。腹腔鏡手術やロボット支援下手術など、開腹手術と比べて体に負担の少ない手術方法も出てきていますが、やはり手術による身体へのダメージは大きく、手術をしないにこしたことはありません。それでも手術が必要になる場合に備えて、日々の生活を大切に過ごすことが重要です。
膵臓がんは早期発見が望ましい病気です。日頃からお酒の飲みすぎや暴飲暴食を控えて健康的な生活を送るとともに、意識的に検診を受けるよう心掛けてください。
この記事を書いた人
児島 亨(こじま とおる)
所属
役職
- 診療部長
- 内視鏡手術センター長
資格
- 日本外科学会 専門医
- 日本外科学会 指導医
- 日本肝胆膵外科学会 高度技能専門医
- 日本循環器学会 専門医
- 日本消化器外科学会 指導医
- 日本消化器外科学会 専門医
- 日本消化器病学会 専門医
- 日本内視鏡外科学会 技術認定医(消化器・一般外科 腹腔鏡下肝切除術)
- 日本肝胆膵外科学会 評議員
- 日本ロボット外科学会Robo-DocPilot
- 下肢静脈瘤に対する血管内レーザー焼灼術実施基準による実施医
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