肝臓がんに対する外科的治療について
肝臓がんは大きく分けて原発性肝がん(肝臓初発のがん)と転移性肝がんに分類されます。さらに原発性肝がんは肝細胞がんと肝内胆管がんに大別されますが、多くは肝細胞がんで、一般に肝がんといえば肝細胞がんのことを言います。
肝細胞がんの多くは、B型とC型のウイルス性肝炎患者に発症することがわかっています。肝炎ウイルスの感染者がすべて発がんするわけではありませんが、慢性肝炎が進み、肝硬変に移行すると、発がんの危険性は高くなります。最近では、ウイルス性肝炎は薬物治療により非常に高確率でウイルスの排除や制御ができるようになってきているので、肝炎の状態を正確に知り、治療することは非常に重要です。
また、近年では、一部の脂肪肝から脂肪肝炎を発症し、慢性脂肪肝炎から肝硬変に移行して肝細胞がんを発症することもわかってきました。生活習慣病から発症する肝がんなので、生活習慣を見直すことで予防できる可能性があります。
肝内胆管がんは、肝臓内で生成される胆汁を送る肝内胆管から発生するがんで、肝細胞がんに比べて少ないがんです(肝臓外の胆管に発生する肝外胆管がんは「胆道がん」の項を参照ください)。肝内胆管がんの発症を予測することは困難です。がんの症状(上腹部痛や食欲不振など)が出たとき、あるいは肝機能異常がみられたときには進行した状態のことが多いため、普段から健康診断などの際に腹部超音波検査を受けておくのがよいでしょう。
転移性肝がんは、肝臓自身を含むさまざまな臓器のがんが肝臓に転移したものです。元のがんの進行度で肝転移の可能性を予測することができます。転移性肝がんで外科治療の対象となるのは、多くは大腸がんからの肝転移と全身のさまざまな臓器にみられる神経内分泌がんの肝転移、肝細胞がんの肝内転移などです。また、その他のがんでも状況によって外科治療の対象になる場合があります。最近では画像検査の進歩や手術術式の進歩により、肝臓に広範囲に存在する転移性肝がんの切除も可能になってきています。また、化学療法の進歩により、発見当初は切除困難であっても、化学療法後に肝切除が行えることも増えてきました。
いずれにしろ肝臓がんの診断は、それぞれのがんの腫瘍マーカー(肝細胞がんに特徴的な腫瘍マーカーはAFPとPIVKAII、肝内胆管がんではCEAやCA19-9です)と超音波検査、CT・MRI検査といった画像診断にて行います。
また、初期治療後も定期的に上記の検査をきちんと行うことで、再発を再治療可能な段階でとらえることができます。特に、肝細胞がんは初回治療で完治しても、肝臓自体に肝硬変などの発がん要素があり、別の肝細胞がんが新たに発生するという(多中心性再発といいます)問題があるので、定期的な検査は欠かせません。
肝臓がんの外科治療
肝細胞がんの切除の安全性は、肝硬変の進行程度(肝予備能といいます)と大きく関係しています。また、腫瘍の大きさ、個数などが治療後の再発を左右します。したがって、両面からよく考えて肝切除の方法や範囲を選ばなければなりません。肝硬変が進んで肝機能が不良な場合には肝切除以外の治療、すなわちラジオ波焼妁や肝動脈塞栓療法を選択します。また、場合によっては肝移植術の適応となることもあります。
ガイドライン上では、肝細胞がん3個までが肝切除の適応です。また、切除後に残る肝臓の機能がよければ、3個以上でも切除する場合もありますし、大きさは10cm以上でも切除は可能です。しかし、主腫瘍周囲の肝臓に広範囲の肝内転移が生じたときや、肺、骨など肝臓以外の転移が認められるときなど、病巣を完全に取りきれる(根治性のある)手術が望めないような条件での手術は無謀といえます。その場合は、抗がん剤(分子標的薬)などの治療を選択します。
現在肝切除は、お腹を大きく切開し肝臓を切除する開腹手術と、お腹に数か所穴をあけて肝臓を切除する腹腔鏡手術があります。腹腔鏡手術のほうが体に優しく回復の早い手術となりますが、状況によっては施術困難な場合もあります。通常肝切除の前には、造影剤を使用したCT画像を3Dに再構築し、肝臓がんの位置や血管との関係を考慮したシミュレーションを行い、適切な術式の選択や残る肝臓の機能を予測し、安全で確実な手術を行います。
単純な肝切除は、おおむね輸血なしで可能です。術中術後合併症としては、一般的な合併症のほかに、肝切離面からの術後出血と肝不全などが考えられますが、手術手技の向上と術前に残肝機能を正確に評価できる現在ではまれとなっています。
肝細胞がん切除の治療成績
2009年~2018年まで、初発肝細胞がんの肝切除を290例行っています。肝切除を数回くりかえした肝細胞がんでも、10年以上生存された例もあります。一方、術後5年を経過してもその後再発するか、あるいは肝硬変が悪化して肝不全で死亡する例があります。近年では、肝炎治療の向上や新規肝炎患者の減少により、肝細胞がんの新規発症例は減少し高齢化する傾向があります。
全体の5年生存率は66%、10年生存率は42%です。
全体 | 症例数 | 3年生存率 | 5年生存率 | 5年生存率 |
---|---|---|---|---|
Total | 290 | 77.9% | 65.6% | 42.1% |