AYA世代のがん診療について
AYA世代とは?
AYA(読み方:アヤ)世代とは主に思春期(15歳)~30歳代までの世代を意味しており、その名前の由来はAdolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字をとったものです。国立がん研究センターの調べによると、日本においてがんに罹患するAYA世代の人数は年間に約2万人といわれています。
AYA世代は、小児から成人への移行期で、家庭や学校・仕事など本人を取り巻く生活や環境が大きく変化する時期です。この時期に発症するがんは成人期に発症するがんと比べて情報量も少なく、また身体的・精神的なストレスも多いため、さまざまな影響や問題を抱えるケースがあります。
このページではAYA世代のがん患者さん向けて、知っていただきたい情報をまとめています。
AYA世代のがんの特徴
AYA世代のがんには、小児期に発症しやすいがんと成人で発症しやすいがんの両方を含んでおり、年代によって異なります。
10代のような若い世代では小児と同様に白血病や生殖細胞から発生する胚細胞腫等の割合が多く、成人~30代では乳がん・子宮頸がんといったがんが上位になります。
中には骨・軟部腫瘍や悪性リンパ腫といった希少がんの患者さんも多く含まれます。
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | |
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0~14歳(小児がん) | 白血病 [38%] | 脳腫瘍 [16%] | リンパ腫 [9%] | 胚細胞腫瘍・性腺腫瘍 [8%] | 神経芽腫 [7%] |
15~19歳 | 白血病 [24%] | 胚細胞腫瘍・性腺腫瘍 [17%] | リンパ腫 [13%] | 脳腫瘍 [10%] | 骨腫瘍 [9%] |
20~29歳 | 胚細胞腫瘍・性腺腫瘍 [16%] | 甲状腺がん [12%] | 白血病 [11%] | リンパ腫 [10%] | 子宮頸がん [9%] |
30~39歳 | 女性乳がん [22%] | 子宮頸がん [13%] | 胚細胞腫瘍・性腺腫瘍 [8%] | 甲状腺がん [8%] | 大腸がん [8%] |
出典:小児・AYA世代のがん種の内訳の変化(国立がん研究センター がん情報サービス)
AYA世代のがんの特徴として、高齢者に比べて「自分ががんになる」という意識が低く、自覚症状からがんの発症を疑うことが少ないということがあります。
その結果、病状が進行した状態で発見されることが多く、抗がん剤や放射線治療、手術などを含めた集学的治療のすべてが必要になることがあります。
妊孕性(にんようせい)とは
AYA世代のがん患者さんには、結婚や子育てといった時期を迎える方も多く含まれます。そのため、がんと診断をされて抗がん剤治療を行うにあたり、重要なのが妊孕性(にんようせい)という「妊娠をするための力」の問題です。抗がん剤治療を行うことによって、子どもを産むための身体の機能が低下または消失してしまい、将来、妊娠・出産が行えなくなる可能性があります。
これを回避するために、希望される方には治療開始前に、卵子(既婚者には受精卵、未婚者は未受精卵)や精子の凍結保存を行うことによって妊孕性を残しておくことが可能です。また卵巣自体の凍結保存を行うことにより妊孕性を残すことも可能です。
AYA世代のがんと遺伝的要因
AYA世代のがんの中には、遺伝的要因によるものもあります。 有名なものに「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC:Hereditary Breast and Ovarian Cancer)」があります。この疾患は、BRCA1/2(ビーアールシーエー1または2)の遺伝子変異によるもので、親から子へ50%の確率で受け継がれ(常染色体優性遺伝)、日本人の乳がんの約5~10%を占めるといわれています。BRCA1/2に変異があると一生のうちに乳がんになる確率は41~90%(一般の人は9%)になるといわれており、卵巣がんとあわせて現在その対策が必要とされています。 若くして乳がんを発症した患者さんの中にはこの遺伝子の変異による発がんの可能性があり、今後、反対の胸への乳がん発症や卵巣がんの発症に注意する必要性があります。
乳がん患者さんのうち、希望者にはBRCA1/2の遺伝子検査(保険適応で6万円程度)を行い、変異がある(陽性)と認められた場合には残存乳房の定期的なMRI検査及び卵巣がんのチェックを行うことが推奨されています。また、予防的な乳房切除や卵巣切除についてもガイドラインで推奨されています。いずれもHBOCと診断された方には保険適応であり、がんを回避する手段として、実施施設が広がりつつあります。 当院ではBRCAの検査を行い、HBOCと診断された患者さんで予防切除を希望される場合には、適切な実施施設に紹介をしています。遺伝カウンセリング外来につきましては、当院での開始が決定いたしました。
当院の治療・サポート体制
診療体制
現在、当院ではAYA世代の方々を特別に対象にした治療や専門チームはありませんが、外科・内科・産婦人科・小児科・泌尿器科等の各医師が、それぞれの専門分野のがんに対して治療を行い、その中で必要な支援があれば、その都度提供をしていく連携体制をとっています。
妊孕性温存に関しては、希望者に対して十分な情報提供が行われていないという事態を避けるために、すべてのがん患者さんに対して、病名を告知する際に妊孕性温存の希望の有無について書面で確認する体制を整え、希望者には産婦人科・泌尿器科の医師の説明を受けていただけるようにしています。その上で、希望される方には上述した凍結保存が可能な医療機関を速やかに紹介し、その後のがん治療が遅れる事なく開始できるよう取り組んでいます。
また岡山県では、対象者に助成金が用意されており、こちらについても情報提供を行っています。
サポート体制
AYA世代には就学中の方もいれば、働き盛りの方が含まれます。多くの方々が治療が一段落したら復学・復職をされています。社会人の患者さんの一部では、希望していても復職ができない状態が続き、治療に関して金銭的な負担が重くなる方もいらっしゃるのは事実です。長期間に及ぶ抗がん剤治療のために、その副作用と精神的ストレスなどに悩まれるケースも多く見受けられます。
当院では他の医療機関と同様に、いろいろながんにかかわる情報提供やそのサポートを行う「がん相談支援センター」を設置しています。
がん治療に関するさまざまな問題点の相談を受ける窓口でもあり、そこから高額療養費制度、限度額適用認定制度の紹介や、就労支援にかかわる社会労務士の窓口、また、妊孕性温存にかかわる情報提供なども行い、主治医と患者さんの橋渡し的な役割も果たしています。臨床心理士への相談のつなぎ役としての役割も一部では担っており、ここから主治医を通して心療科への紹介なども行っています。
AYA世代は患者さん自身の立場が思春期から社会人へ、さらに子育て期などの親世代へと変化していく時期であり、その中での闘病生活は極めて不安定になりやすい時期です。
がん相談支援センターでは、そのような患者さんに向けたサポートを行っています。専門の研修を修了した看護師やがん相談支援員が、確かな情報に基づいて患者さんからのご相談を伺っています。
ご自身が利用できる制度やシステムについての情報のご相談には、積極的にがん相談支援センターをご利用ください。